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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

シャンパンボトル

災難は予想もしない時に、やってくる。人生とはそういうものである。

宮崎に住む娘が、久し振りに我が家へ帰ってきてくつろいでいたある朝のこと。

狭い居間に小さな飾り棚があり、その桟(さん)に何かのおまけで戴いたシャンパンのボトルが何気なく置かれていた。床からわずかに40〜50cmの高さのところである。

飾り棚から一枚のお皿を出そうとして、フンフン鼻歌を歌いながら彼女が飾り棚の開きをカチャリと開けた時、一緒にそのボトルが押し出されてゴトリと落ちた。
落ちたのはいいが、落ちた所が彼女の左足の人差し指の真上だった。

「ゴトッ!」

「ギャーッ!!」

閃光のような悲鳴の後、一瞬の沈黙を置いて次の瞬間「痛い!痛い!・・・」と跳ね回り始めた。

あっちのソファーに倒れこんだり、こっちのソファーに寝転んだりして、うめいている。

「どうしたの?」

家族が不思議がって笑いながら聞くが、ヒーヒー言っている本人の小さな目からは、小さな涙がひとしずくこぼれている。

「ううう・・・、ビンが、ビンが落ちてきた。」

「ビンって、どこの?」

「そ、そこにあった・・・、もう、笑い事じゃないと!痛い!痛い!」

彼女は足先を押さえながら、うらめしそうに家族を睨む。

「ビン?このシャンパンのビンね。そりゃあ、落ちるやろ。開ける前にのけんと、そりゃあ落ちるにきまっとるよ。」

家族の冷たい声が、無情に響く。

「そんなこと言っても、置いとる人が悪い!」

彼女は痛みの過ぎ去るのをひたすら待ちながら、この腹立たしさを、どこかぶつけようと探している。

「ハハハ、開ける前に、のけんほうが悪いったい。」

落下したのはわずかな高さだったので、家族は笑い飛ばしている。
彼女は足の先を凝視し、

「あ、あ、赤くなってきた、ほら、どんどん、赤黒くなってる!ね、見て、見て!」

私は
「ふんふん、あんまり腫れてないし、内出血やろ、明日まで様子をみたらいいよ。」

その朝はそれで終わった。

しかし夕方になって、指の変色が顕著になったので、結局整形外科に行ったところ、指骨の骨折が確認されたのだった。

「『痛かったでしょう、どうしてすぐ来なかったんですか?』と、病院で言われたよ、ね、ひどかったとよ。

それなのに今日は一日、博多駅まで歩いたり、走ったりさせられたんだからね。」

娘が自分の痛さの正当性を主張するように、くどくどと報告する。

(ふーん、あれくらいの高さでも、骨が折れるのか・・・)

私は気の毒になったが・・・、まあ自分で落としたのだから仕方ない。本人も今、反省の最中ではないかしら・・・。
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