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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

かあちゃん、ナイスタイミング!

「ハハハ・・・今日は連れて帰ろうか。」

ムッシュKがニコニコの笑顔で来院されました。お孫さんでしょうか、中学生くらいのお嬢さんもご一緒です。

長く入院中だった柴犬のトトちゃん(仮名)がやっと帰宅できる日が来たのです。
トトちゃんはこの夏に具合が悪くなり、検査でフィラリアに感染している事がわかりました。

「ムッシュ、トトちゃんはフィラリアと暑さで心臓がやられていますね。薬で治療するか、手術するか、どちらかになりますが・・・。」

「うーん、そりゃ、思い切って注射うってもらうしかないだろ」

「先生、でもトトはどうなりますか?」

心配して隣のマダムがお尋ねになりました。

「はい、どちらもそれなりにリスクがあります。強い副作用がでるかもしれません。あの、三つ目の方法もないわけではありません。トトちゃんは高齢でもありますし、安静にしてとにかく病状を落ち着かせる手もありますが・・・。」

いろいろ相談の結果、積極的なきつい治療は避け、夏の間ずっと安静入院という事になったのでした。

幸いトトちゃんは、人当たりが優しくて病院の生活にもすぐ慣れ、ストレスもなくのんびりと過ごし体重も僅かに太るくらいになりました。

それから2ヵ月でした。今日やっと退院です。

「かあちゃんは、まだかなあ? 」

今日は、奥様ももうすぐ来られるというので、ムッシュは暫らく待合室で待っていましたが、痺れを切らしたのでしょう。

「かあちゃんは、まだみたいだ。よし、もう先に帰ろう。ワハハ・・・、トトほら、帰るぞ!」

ムッシュはお孫さんを促すと、リードを引っ張って駐車場に出ました。そして銀色のワゴン車の後部を開け、「よいしょ」と、トトちゃんを乗せます。

「さあトト、じっとしとけよ。」

そしてバタンと閉めようとした瞬間です。

「あっ、危ない!!」

ムッシュが閉める直前に、トトはするすると手前に出てきて、ひょいと飛び降りてしまったのです。そしてそのままタタタタ・・・と、逃げ出しました。

けれど、隣はすぐ車道です。夕方の帰りを急ぐ車が行き交っています。

「うわあ! 撥ねられてしまう!!」
「もう、駄目だ!」

誰しも覚悟をした瞬間でした。
その時、駆けて行くトトの首から垂れたリードを、ぐいと踏みつけた人がいました。

トトがガチッと止められます。

「あっ、かあちゃんだ。」

そうです。危機一髪のタイミングで、トトの引き綱を踏んだのは、今到着したばかりのマダムでした。

「おー、危なかったなあ・・・ハハハ」

「あなた、危ないじゃない、こんなとこで放してしまったら・・・。」

その光景を窓から目撃していたスタッフ達も、胸をなでおろしたのです。

(やっぱり母ちゃんは、頼りになるなあ。)
笑っているムッシュも、きっと心の中ではそう思ったことでしょう。
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