新婚旅行二日前
「あの、交通事故の犬がいるので、診てもらえますか?」
金曜日の夜、病院を閉めようとしていたら電話があった。
しばらく待つと、青年が到着。
「車に乗せてきたけど、降ろせなくて・・・」
「御自分の犬じゃないんですね? 怪我をした犬は咬みつきますからね。じゃあ、私たちで降ろしましょう。」
助手席に乗せられていたのは、老いた中型犬。首にリードをつけ、ゆっくり抱え、そのまま診察室へ直行する。
診察台では、横たわり立てそうにない。骨折か脱臼を疑ったが、レントゲンを撮ると骨盤骨折だった。
「最初は女の子がこの犬を助けようとしていたんです。それで私も手伝ったんですが、さあ、こんな夜遅くにどうしようとなると困ってですね。
あちこち門を叩いて、やっとこちらに電話が通じたんだけど、彼女は『わたしはバイクだし、仕事があるから・・・』と、行ってしまって。
こりゃ、困ったなと思いながら連れて来ましたよ。」
と、青年が笑いながら言う。
「ハハハ・・・そうです。若い女の子にはよく、『えっ!そんな!』って肩透かしをくらうんですよ。男は泣きをみるんです。
でも、よく骨折の犬を助けましたね。普通は咬まれるんですよ、怪我はないですか?」
「あ、僕は大丈夫だけど、女の子は、だいぶ咬まれていましたよ。結構ひどい怪我してたみたいだった。」
「そうでしょ、可哀想に・・・。さて、この犬はどうしましょう。」
「どうしたらいいですかね。」
「とりあえずお預かりして、内臓の損傷がないか、様子を見ましょうか。飼い主さんが捜していたら、すぐ連絡がつくかもしれないし。」
「はい、お願いします。明日また、電話します。ただ、僕、明後日から、実は新婚旅行に出る予定なんです。」
青年は、いかにも申し訳なさそうに言う。
私もニヤリとして、
「おー、それはおめでとうございます!いいなあ、幸せですね!」
「はい、へへへ・・・」
「どこへ、行く予定です?」
(大きなお世話だろうが、青年があまりにも屈託なく、爽やかなので、つい余計な事まで聞いてしまった。)
「はい、北海道です。」
「あー、北海道か、今頃はいいんだそうですよねえ。そうか、じゃあ、楽しい旅行をしてくださいね。ところで、犬はもし飼主が見つからなかったら、どうしますか?最悪の時は管理センターへ行ってもいいですか?」
「あ、僕が責任をもってひきとります。えっ?嫁さんですか?大丈夫です。彼女も賛成すると思います。へへ、良い彼女なんですよ・・・」
「そうですか、それじゃあ、またお電話下さい。」
幸せな青年は、爽やかに帰っていった。
そして翌日、約束どおり青年から電話がかかった。
「あの、昨日の犬は元気ですか?ああ、それなら良かった。ありがとうございます。・・・それから、飼主が見つからなかった時の事ですが、やっぱり引き取りはうちは無理みたいで。嫁さんに反対されて・・・」
「ハハハ・・・、いいんですよ、そんなこと気にしなくて良いですよ。こっちでなんとかしますから。それより楽しい旅行をしてきてくださいね。」
「あ、はい。ありがとうございます。じゃあ。」
ホッとしたような青年の声。
新婚旅行の前から、青年にはさっそく奥さんの圧力が発揮されたようです。そんなこともあるだろうと、最初からあまり当てにしていませんでした。
結婚生活ではこちらが先輩です。
それにしても青年よ、まだまだ圧力は強くなっていくからね。
ぐんぐん発達して、3年もすると
非常に大型で、猛烈な台風に成長するかもしれないから、頑張ってね!
金曜日の夜、病院を閉めようとしていたら電話があった。
しばらく待つと、青年が到着。
「車に乗せてきたけど、降ろせなくて・・・」
「御自分の犬じゃないんですね? 怪我をした犬は咬みつきますからね。じゃあ、私たちで降ろしましょう。」
助手席に乗せられていたのは、老いた中型犬。首にリードをつけ、ゆっくり抱え、そのまま診察室へ直行する。
診察台では、横たわり立てそうにない。骨折か脱臼を疑ったが、レントゲンを撮ると骨盤骨折だった。
「最初は女の子がこの犬を助けようとしていたんです。それで私も手伝ったんですが、さあ、こんな夜遅くにどうしようとなると困ってですね。
あちこち門を叩いて、やっとこちらに電話が通じたんだけど、彼女は『わたしはバイクだし、仕事があるから・・・』と、行ってしまって。
こりゃ、困ったなと思いながら連れて来ましたよ。」
と、青年が笑いながら言う。
「ハハハ・・・そうです。若い女の子にはよく、『えっ!そんな!』って肩透かしをくらうんですよ。男は泣きをみるんです。
でも、よく骨折の犬を助けましたね。普通は咬まれるんですよ、怪我はないですか?」
「あ、僕は大丈夫だけど、女の子は、だいぶ咬まれていましたよ。結構ひどい怪我してたみたいだった。」
「そうでしょ、可哀想に・・・。さて、この犬はどうしましょう。」
「どうしたらいいですかね。」
「とりあえずお預かりして、内臓の損傷がないか、様子を見ましょうか。飼い主さんが捜していたら、すぐ連絡がつくかもしれないし。」
「はい、お願いします。明日また、電話します。ただ、僕、明後日から、実は新婚旅行に出る予定なんです。」
青年は、いかにも申し訳なさそうに言う。
私もニヤリとして、
「おー、それはおめでとうございます!いいなあ、幸せですね!」
「はい、へへへ・・・」
「どこへ、行く予定です?」
(大きなお世話だろうが、青年があまりにも屈託なく、爽やかなので、つい余計な事まで聞いてしまった。)
「はい、北海道です。」
「あー、北海道か、今頃はいいんだそうですよねえ。そうか、じゃあ、楽しい旅行をしてくださいね。ところで、犬はもし飼主が見つからなかったら、どうしますか?最悪の時は管理センターへ行ってもいいですか?」
「あ、僕が責任をもってひきとります。えっ?嫁さんですか?大丈夫です。彼女も賛成すると思います。へへ、良い彼女なんですよ・・・」
「そうですか、それじゃあ、またお電話下さい。」
幸せな青年は、爽やかに帰っていった。
そして翌日、約束どおり青年から電話がかかった。
「あの、昨日の犬は元気ですか?ああ、それなら良かった。ありがとうございます。・・・それから、飼主が見つからなかった時の事ですが、やっぱり引き取りはうちは無理みたいで。嫁さんに反対されて・・・」
「ハハハ・・・、いいんですよ、そんなこと気にしなくて良いですよ。こっちでなんとかしますから。それより楽しい旅行をしてきてくださいね。」
「あ、はい。ありがとうございます。じゃあ。」
ホッとしたような青年の声。
新婚旅行の前から、青年にはさっそく奥さんの圧力が発揮されたようです。そんなこともあるだろうと、最初からあまり当てにしていませんでした。
結婚生活ではこちらが先輩です。
それにしても青年よ、まだまだ圧力は強くなっていくからね。
ぐんぐん発達して、3年もすると
非常に大型で、猛烈な台風に成長するかもしれないから、頑張ってね!
2010-07-13 15:00
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