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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

600坪の真ん中に建てた理由

「よう、生きたですな、11歳になりましたもん。」

大きなコリーのタミーちゃん(仮名)が尿毒症で倒れ、点滴をしている犬の入院室での会話です。

飼主のムッシュSがしげしげとタミーちゃんを見つめながらそう言われました。

「前のコリーは『ワカ』と言いましたが、9歳で死んだですもん。それに比べれば、だいぶ生きた。」

「ムッシュには二代目のコリーでしたね。」

ケージの前にじっと立ち尽くし、グーグー寝ているタミーちゃんを見つめながら、ムッシュは話を続けます。

「あの犬も頭が良かった。あの頃ウサギも飼っていたんですが、座布団の四隅についている房がなんでか無くなるんです。

そのうち、仏壇に置いてある数珠の房も無くなって、『ははあ、こりゃあ、ウサギが食いよるばい』と気がついて、そいで昼は庭に放すようにしたんです。うちは庭が広かですから。敷地が600坪ほどありますもん。」

ムッシュのお宅はもともと古い農家で、今も米を作っているそうです。

「それで、夜になる前に、ウサギを小屋に入れんとイタチやらに殺られたら可哀想やから、連れ戻そうと思うんやけどこれがどこにおるか見つからんとです。

いくら探してもわからんとですよね。ところが
『ほんなら犬ば出して見れ!』
ちゅうてワカを放したら、すぐ見つけて教えてくれるんですよ。もう、出したらいつもすぐここにおるちゅうて、教えてくれてましたな。

「へえ、ウサギに食いつかないんですか?」

「いいえ、なんもしません。

 うちの家は敷地の真ん中にあるんですよ、 
『どげんしてこんな真ん中に建てるとや? じゃまやろうもん。端っこにしなっせ。』
と、親戚からだいぶ言われたらしいですが、親父は
『いいや、真ん中でいい。』ちゅうて、

『どうしてそんな真ん中に建てるとや?』

『真ん中やったら、火事んときでん延焼せんし、夫婦喧嘩してん隣ば聞こえんもん。』
ちゅうたらしいです、ワハッハ・・・。」

なかなか変わり者の、ユニークなお父さんだったようです。

「そいで、この犬に名前をつける時、女房が『タミー』にすると言うでしょうが。
『どうしてそんな名前か?』
聞いたら、
『あんたの名前が「たくみ」やから、「く」を抜いてタミーにする。
そしたら、あんたとケンカして腹かいた時も、タミー、タミーってこの犬を叱れるでしょうが。』やて・・・ハハハ・・・」

そんな話をしているうちに、マダムも静かに入院室に入ってこられました。そっとムッシュの後ろに立つと、寝ているタミーちゃんを、一緒にいつまでも見つめておられました。
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