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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

ロクの冒険(その2)

マダムがあわててロクを押し留めようとしたが、しかしもう遅かった。

星空に包まれた林道。その山側からかぶさるように、人の背丈ほどに伸びた草薮の真っ暗な中へ、すでにロクが飛び込んでいった後だった。

ザザザザザッ!

藪に音が走る。
怪しい気配のした方へと、果敢に追跡しているロク。

「ロク、ロクったら!」

と、マダムがもう一度呼んだ時だった。

「ギャイン! ギャギャギャギャー!」

今まで一度も聞いた事のないような凄い悲鳴をあげて、ロクが草むらから飛び出してきた。

「どうしたの? ロク! ねえ、どうしたの?」

マダムがいくら聞いても、ギャギャギャギャと呻くばかりでわけがわからない。それでも、様子がただならぬ事は間違いない。

マダムはロクを抱えようとする。しかし興奮しているロクが、マダムに咬みつく。それでもマダムはロクを抱き上げて、息を切らせながら自宅へ戻った。

「ハアハアハア・・・あなた! あなた、大変! ロクが! ロクが!」

「はあ? 何あわててるんだ。ロクがどうしたんだ?」

「それが・・ハアハア・・・よくわからないけど、怪我をしたのよ。何かに咬まれたんじゃないかしら・・・」

「怪我だって?どうせたいした・・・・・ありゃ!これは大怪我だぞ、一体どうした?」

その時すでにロクの左前足は紫色になって茄子のように大きく腫れあがっていた。手根関節の上辺りの皮膚が薄くなり、血が滴り出て、ボタボタと床に落ちている。

ムッシュが止血しようとしても、「ガッガッガッガ」と怒って絶対に触らせようとしない。

「あ痛ててて・・・、こら、ロク、咬みつくな、怪我を見れないだろ!ばか!」

「あなた、どうしよう?」

「どうしようったって、・・・だから言っただろ、こんな遅くに連れ出すなって。」

「もう、今さらそんなこと言ったって、ねえ、どうしよう?」

「仕方ない、どこか病院にみてもらおう。」

・・・・・・・・・

(続く)
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