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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

酸素流量計

「先生、酸素が下がっています!」

「なに! 酸素が下がった!?・・・」

猫の手術中のことでした。血圧を測っていたスタッフが、ふと見ると麻酔器の酸素流量が低下しているのに気がついたのです。

いつもの目盛りラインよりわずかに下がった所で、流量計の目盛りボールがふわふわしています。

「おかしいなあ・・・、ボンベを換えて、まだそんなに日は経たないんじゃないかなあ?」

「そうですね、まだそんなに経ちませんよね。」

「念のため新しいボンベに切り替えてくれ。それから酸素の注文を電話しておいてくれ。」

午後、酸素会社の若い青年社員が、ボンベの交換に来てくれました。

「ああ、確かに漏れてますね。ほら、ここです。流量計のところから泡が出てるでしょ、ここから漏れてるみたいです。」

「あちゃー、流量計からですか・・・。困ったなあ・・・、機械の寿命ですかね。」

「そうですねえ・・・、これは交換しないと仕方ありませんね。」

その日私は、すっかり落ち込んでいました。
確か十数年前だったでしょうか、流量計が壊れた時に、偉く高い修理代を請求された事があったのです。

(まったく、こんな小さな病院でも設備を維持するというのは、大変だな・・・)

しかしくよくよしても仕方がありません。なるようにしか、ならないのです。

「いえ、先生、今回はそんなにはしないと思いますよ。」

がっかりしている私に、青年社員が笑顔で言い残してくれた言葉が、心の支えになる。

かくして一週間経ち、ようやく部品が届いたとのことで、今日、流量計の取替え工事が終わりました。

「じゃあ、納品書だけここに置いときます。サインをいただけますか?」

青年の差し出した書類に、猫娘がサインをする。

汗をかきかき、一生懸命取替え作業をしてくれた青年は、気持ちの良い笑顔で最後まで仕事をし、トラックに乗り込むとブルンブルンとエンジンを鳴らして帰って行った。

さて別の仕事をしていた私は、後で恐る恐るその納品書を覗き込んだのですが、まだ金額は明記されていませんでした。

しかし何にしろとにかくこれで、心配なく酸素が使えます。

犬の入院室からは、今日手術が終わったばかりの柴犬が、もう元気に吠えている声が聞こえます。

秋の優しい陽の光が、診察室の窓から射し込んでいました。
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