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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

母娘二代で

先生、ワクチンの患者さんです。」

秋も深まり行く、11月も下旬のある日の午後でした。
カメ子に呼ばれて診察室に行くと、美しいマダムと中学生くらいのお嬢さんが、白いトイプードルを連れて入って来られました。

(ん? 見たことある女の子??)

と、内心思いつつ、まずワクチンの問診をしようとした時でした。マダムの方からこう言われました。

「先生、その節は子供がお世話になりました。」

「・・・?あ、そうだ! 職場体験ですね! この前来てくれたんだ!」

そうそう、中学生の職場体験ということで、当院に二日間、通ってくれた二年生の女の子二人のうちの一人でした。

「はい、ありがとうございました。子供も喜んでいました。

 先生、でも実は私も、まだ結婚する前のことですが、ヨークシャーテリアを連れてきて、ここで先生に診てもらったことがあるんですよ。

あの時は、癌が出来ていると言われて、子宮をとって、皮膚も(乳腺?)だいぶ切って・・・手術をしてもらいました。

でもその犬、あれから随分長生きしたんですよ。フフフ・・」

「へえ・・、そういうことがありましたですかね?」

「はい、だからまた娘がこちらで職場体験をさせてもらうと聞いた時、まあ!こちらの病院には縁があるのかしら・・・と思いました。」

マダムがニコニコと懐かしそうに話してくださる。

(うーん、昔、そんな手術をしたヨークシャーは???)

大急ぎで頭の中の想い出のアルバムをめくるが、あちこちページが糊で張り付いているのか、すでに記憶が脱落したのか、出て来ない。

こんな時はかっこよく、
『はいはい、覚えてますよ!そうでしたよねえ!あの時の、そうか、ヨーキーのお嬢さんでしたか!』
・・・と、答えられたらいいのだが、残念ながら思いだせなかった。

いや、多分、カルテさえあれば、記憶の糸はたぐれるかもしれないが・・・。

「それにしても、マダム、マダムがまだご結婚前にヨーキーを連れてここにお出でになり、その後結婚されて、こんなに大きな娘さんがいるわけだから、
つまり、私も年をとったということですねえ・・。」

私はしみじみと、そう思った。いえ、本当に。

と、マダムはすかさず

「いえいえ、先生はあの頃とちっとも変わりませんわ!」

笑いながらそうフォローしてくれたのでした。
その笑顔は、私には案外うれしいものでした。

人医では、子供が大きくなった時、わが子を自分のかかった小児科に連れて行くというケースがあるようです。

いえ、親犬のその子犬や孫犬をまた同じ獣医が診るのは、それはあたりまえですが、・・・だって犬は二歳で子供を産みますからね、

でも、人生に最も大きな意味をなすのは、やっぱり人と人との係わり合いです。

人との係わり合いを抜きにしては、意味のある仕事など、この世に存在しないとも言えるでしょう。

ですから、同じ動物病院にかかっていただけるということ、十数年して親娘で来てくださるというのは、獣医としても嬉しい事でした。感謝なことでした。
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