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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

老境(その2)

病院に連れ帰って体温を測るとだいぶ低下していました。やはり老衰が進み、体力が気候に耐えられなくなっているかもしれません。

まず温水で軽くシャンプーして皮膚のかぶれを軽減する処置をし、その後皮下点滴をしながら暖かい入院室に移します。
小さな体を小刻みに震わせながら、スーちゃんは黙って眠り始めました。
昼から夜までずっと眠りっぱなしです。

「まだ寝てるの? よく眠るねえ。」

「そうなんですよ。死んでいるかと思うくらい寝ています。」

とにかくその日はよく寝ました。いえ、翌日もよく寝ました。気が向いたらフードを食べてくれて、あとは寝てばかりです。昏々と眠っています。

血液検査をした範囲では、内臓に明らかな疾患は見つかりません。

「じゃあ、体をきちんと洗おうか。」

数日後、体力がありそうなのを確認して、全身のシャンプーを実施します。
認知症のため時々バタバタしたりウオンウオン鳴いていますが、それ以外は大きな抵抗もせず、体を洗わせてくれました。

「へえ、すごい奇麗な毛並みだね。」

「ええ、とてもしっかりしてますね。」

きちんとシャンプーをしたあと、その下から現われたのはびっくりするくらい奇麗な毛並みでした。白地に栗色のスジを無数に施したような、明るい美しい被毛です。

「横から見ていると、まるで4,5歳の犬と変らないよね。」

この子はきっとすごく長生きするタイプなのかもしれません。
私は感心して眺めていましたが、しかし本人は何をされているのかもわからないまま、ゆっくりした足取りで、入院室に戻っていきます。

それから二週間ほどたってからでしょうか、マダムとスーちゃんの今後を相談しました。

御主人が持病をもち、週に三回の病院通いが長く続いており、その上咬みつかれたりしたので怖くなったとの事。
今はスーちゃんに十分手が回らないようでした。

「しばらく病院で預かってもらえますか?」

ということで、スーちゃんは当分病院で暮らすことになりました。

しばしば遭遇する事ですが、飼主のご家族が健康を損なった時、長く暮らしたペットの世話をどうするかはいつも難問になります。
これから一人暮らしの世帯が増えるほど、ますます大きな問題となってくるでしょう。

安易な解決策はありません。けれど、これだけは言えると思います。

一番弱い、一番何も言えないものをもし大切にしていける社会を構築したら、
きっとそこは誰でも幸せになれる準備が整った社会だと。
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