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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

ばっさり

二月にしては珍しく暖かくなったある日の昼下がり、飼主のJ兄弟に連れられて、猫のリンちゃん(仮名)が一年ごとのワクチンに来ました。

「元気ですか?」

「はい、特に異常はないと思います。」

茶色と白の被毛は毛艶も良く、賢そうな澄んだ目でキョロキョロ診察室を見回しています。

「体重は5.1kgかな、ちょっと増えましたが、健康そうですね。ではワクチンを注射しましょう。」

体温測定と聴診もすませ、問題なしと判断してキャリーバッグのドアを開けると、リンちゃんは「やれやれ、これで帰れるぞ!」とばかりにそそくさとカゴの中にもぐりこみました。

「おだいじにどうぞ・・・」

さて検査室に戻って椅子に座りしばらくしてからのこと、ふっと疑問が湧き、そばでモップかけをしているカメ子に聞きました。

「ねえ、Jさんの所、猫はニ匹だったっけ?なんだかこの前ワクチンしたような気がしてさ・・・。あれからまだ一年たってないような気がするんだけど。」

「はい、二匹います。この前は別の子を連れて来られました。でも先生、先生は一年前も同じことを私に質問をしましたよ。」

カメ子はピタッとモップの手を止めると、私のほうを向いてそう言い放ちます。

「え? そうだっけ、一年前も同じことを僕は聞いたの? 君はそれを覚えているわけ?・・・」

「はい、そうです。」

モップを忙しそうに動かしながら、なんだか冷たいカメ子の声である。
私は、もごもごと口を動かすが、言葉は出ない。

「・・・でも先生、2年間同じことを聞いたということは、先生の時間の感性が衰えてないということにもなりますから、それはそれでいいんじゃないですか?」

カメ子はそう言いながら、さっさと隣の部屋へ移って行った。

これが武士の立ち合いなら、私は正面から切られ、すれ違ったところをもう一度背中から切られた気分である。

無念!
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