出勤途中の川で(後半)
「ほーら、怖くないからね、じっとしててね、今、助けてあげるよ・・・」
はびこる藻でぬめぬめした川床に注意して足を運びながら、カメ子はゆっくり汚れた犬に近づきました。
用水路の少し川下の方に目をやると、国道202号をくぐるところからぽっかりと暗い暗渠(あんきょ)になっています。
あっちの方へ逃げられたら大変です。
「はーい、お利口さんだねえ」
ドキドキしながら接近すると、ついにカメ子は犬を捕まえました。
首筋を持たれた瞬間一瞬ギクリとした反応を示しながらも、その犬は特に抵抗もせず、おとなしく立ったままです。
「よしよし、良い子ね。上にあがろうね。」
ちょっとだけためらいましたが、ここまできたら仕方ありません。カメ子は汚水に濡れて冷えた犬の体を抱きかかえると、ズブリズブリと水をかき分けて、梯子のある方へ戻りました。
(上まで届くかなあ?)
たいした高さではありませんが、犬を抱えたまま梯子を上がる自信はありませんでした。
(なんとか犬だけ上に、用水路の淵に載せられないかしら?)
カメ子は犬を自分の頭の高さまで持ち上げると、コンクリートの縁まで押し上げました。
「落ちないでね、ちょっと待ってよ。」
急いで梯子を途中まで登ると、もうちょっと犬を奥へ押しやってカメ子は上がり終えました。
「おとなしいね、いい子だね。」
もうちょっと小さかったらカメ子は犬を抱いたまま自転車に乗って病院に連れてきたでしょうが、この大きさはちょっと危険です。
犬をあやして待っているうちに、お巡りさんが到着です。
「あなたですか?電話されたのは?」
「はい、この犬です。」
「どうしますか?」
「とりあえず保護をお願いします。捜索願が出ているかもしれませんし。」
「うーむ、じゃあ、保護しましょう・・・。」
「はい、お願いします!」
疲れた老犬をカメ子が差し出すと、年配のお巡りさんは若手のお巡りさんに目で合図を送る。
若いお巡りさんは、
(えっ!ぼくがですか?・・・)
という表情を見せながらも、恐る恐る手を出して、とにかくカメ子からしっかり犬を受け止めました。
(ごめんなさい、お巡りさん、車が汚れちゃいますね。)
カメ子は気の毒に思いながらも、その犬を警察に委ねたのでした。
濡れた靴、濡れたジーンズのまま自転車をこぐと、風の冷たいこと、寒い事、病院に着いたときには、カメ子もブルブル震えていました。
「おい、犬を川から助けたって? どうなった?」
「はい、中型犬の小さめの子で、年寄りでした。とりあえずどうしようもないので、警察にお願いしました。」
濡れた靴を脱ぎ、靴下を履き替えながら、カメ子はそう話してくれた。
ほどなく、カメ子の携帯に、警察から伝言が入っていました。
「先生、飼い主さんが、見つかったそうです。飼主は近所の方でした。」
「おっ、そうか、連絡があったのか、見つかってよかったね、
やっぱりカメ子だな、犬には優しいなあ・・・。
今年一番の、お手柄だぞ!・・・・。
院長には冷たいんだけどなあ・・・」
私の言葉を最後まで聞かず、カメ子は犬舎に消えていました。
はびこる藻でぬめぬめした川床に注意して足を運びながら、カメ子はゆっくり汚れた犬に近づきました。
用水路の少し川下の方に目をやると、国道202号をくぐるところからぽっかりと暗い暗渠(あんきょ)になっています。
あっちの方へ逃げられたら大変です。
「はーい、お利口さんだねえ」
ドキドキしながら接近すると、ついにカメ子は犬を捕まえました。
首筋を持たれた瞬間一瞬ギクリとした反応を示しながらも、その犬は特に抵抗もせず、おとなしく立ったままです。
「よしよし、良い子ね。上にあがろうね。」
ちょっとだけためらいましたが、ここまできたら仕方ありません。カメ子は汚水に濡れて冷えた犬の体を抱きかかえると、ズブリズブリと水をかき分けて、梯子のある方へ戻りました。
(上まで届くかなあ?)
たいした高さではありませんが、犬を抱えたまま梯子を上がる自信はありませんでした。
(なんとか犬だけ上に、用水路の淵に載せられないかしら?)
カメ子は犬を自分の頭の高さまで持ち上げると、コンクリートの縁まで押し上げました。
「落ちないでね、ちょっと待ってよ。」
急いで梯子を途中まで登ると、もうちょっと犬を奥へ押しやってカメ子は上がり終えました。
「おとなしいね、いい子だね。」
もうちょっと小さかったらカメ子は犬を抱いたまま自転車に乗って病院に連れてきたでしょうが、この大きさはちょっと危険です。
犬をあやして待っているうちに、お巡りさんが到着です。
「あなたですか?電話されたのは?」
「はい、この犬です。」
「どうしますか?」
「とりあえず保護をお願いします。捜索願が出ているかもしれませんし。」
「うーむ、じゃあ、保護しましょう・・・。」
「はい、お願いします!」
疲れた老犬をカメ子が差し出すと、年配のお巡りさんは若手のお巡りさんに目で合図を送る。
若いお巡りさんは、
(えっ!ぼくがですか?・・・)
という表情を見せながらも、恐る恐る手を出して、とにかくカメ子からしっかり犬を受け止めました。
(ごめんなさい、お巡りさん、車が汚れちゃいますね。)
カメ子は気の毒に思いながらも、その犬を警察に委ねたのでした。
濡れた靴、濡れたジーンズのまま自転車をこぐと、風の冷たいこと、寒い事、病院に着いたときには、カメ子もブルブル震えていました。
「おい、犬を川から助けたって? どうなった?」
「はい、中型犬の小さめの子で、年寄りでした。とりあえずどうしようもないので、警察にお願いしました。」
濡れた靴を脱ぎ、靴下を履き替えながら、カメ子はそう話してくれた。
ほどなく、カメ子の携帯に、警察から伝言が入っていました。
「先生、飼い主さんが、見つかったそうです。飼主は近所の方でした。」
「おっ、そうか、連絡があったのか、見つかってよかったね、
やっぱりカメ子だな、犬には優しいなあ・・・。
今年一番の、お手柄だぞ!・・・・。
院長には冷たいんだけどなあ・・・」
私の言葉を最後まで聞かず、カメ子は犬舎に消えていました。
2011-03-10 15:00
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