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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

猫を探して・・・

「おや、誰か来られてるぞ?」

寒かった冬もようやく過ぎ、春らしい陽気になってきた三月のある水曜日でした。

当院では水曜日は6時で早仕舞いの日です。すでに病院は電気も消え、時刻も午後7時を過ぎており、すっかり夕闇が濃くなっていた頃のことでした。

私が所用のため車に乗って出かけようとした時、病院の玄関付近に人影が見えました。どうやらご高齢の女性です。ガラスドアの所から暗い病院の中をしきりに覗いたり、周辺をキョロキョロされています。

「どうかされましたか?」

私はエンジンを止め車を降りて女性のそばに行き、お尋ねしました。

「あの、避妊手術をお願いした猫を見に来たんですが・・・。」

「え? 今日は避妊手術をした猫は、入院していませんよ。」

「でも、ここはノア病院でしょ? ここだと思うのですが。家族からここだと聞いたのですが・・・」

「いえ、何かの間違いかと思います。他所の病院ではありませんか?」

「いいえ、ここのはずなんですが、おかしいわ・・・。」

「でも、間違いなく今日はそんな猫は入院していませんから。」

「そうですか、おかしいわね・・・、そうですか?」

どうしても合点がいかないような顔をして何度も振り返り、首をひねりながらしばらくして彼女は暗闇の中に戻って行かれた。

大丈夫かな?後姿を見送りながら、ちょっと心配になりました。
もしかしたらちょっぴり認知症があるのかしら?それとも本当に何かの聞き間違いで来られたのかしらと、私もよくわからない、判断に迷うそんな雰囲気の方でした。

思わぬことで時間をとり、出かける予定が遅れてしまったので、女性のことが気になりながらも私はそのまま車を出しました。

そうしたら、次の日です。女性は昼間の明るい時におなじことをおっしゃっておいでになったようです。
今度は制服を着たスタッフからも同じ答えを聞いたので、それで納得がいったのでしょうか、以来、もうお出でになっていません。

ただそれだけの出来事です。

あの方の探している猫は、見つかったのか?
それとも、幻の猫を今もどこかで探しているのか?
ちょっぴり、気になるのです。
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