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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

アオバト

それは気候も良い五月の中旬のことでした。
夜九時の閉院時間も間近になった頃、一人の青年が小さなボール箱に一羽の鳥を入れて来られました。

(何だろう?)

とても奇麗な鳥が入っています。優しい緑色をしています。鳩の仲間のようです。箱の中でぐったりと横たわり、苦しそうな息をしています。

「これは・・・、どうされました?」

「はい、何かが屋根に当たるような大きな音がして、玄関のひさしの所からこの鳥が落ちてきたんです。」

「落ちてきたんですか?・・・」

その美しい鳥は、薄いまぶたを閉じ意識は朦朧、口からは喀血していました。顔から体にかけて奇麗な緑色、翼には赤い模様が入っています。

「種類はなんだろうか?」

「アオバトじゃないでしょうか?」

私にはこの奇麗な鳥の種類がわからなかったが、物知りのマル子が横からそうつぶやく。そしてごそごそ野鳥の本を院長室から取り出してきて、アオバトのページを私に見せてくれる。
そこには、湖の上を滑空するアオバトの写真があった。

「うん、なるほど。確かにアオバトだろうね。」

種類はわかったが、顔を横にして伏せたまま、鳥はゼイ・・ゼイ・・と、苦しい息をつなぐばかりであった。

もう治療の段階ではないと思われた。ちょっとでも体を触ればそれに反応して息が止まりそうである。
できる事といえば、酸素を吸わせる事ぐらいだろうか。

しかし、病院に連れて来られてからわずか五分後に、美しいアオバトの呼吸は止まった。

私は野生のアオバトを間近に見るのは初めてでしたが、その姿は、死んでもなお美しいものでした。

以前、山里近くの農業用水路でカワセミを見、その宝石のような美しさに息をのむほど感激したことがありますが、

このアオバトの美しさは、限りなく優しさを湛えた美しさでした。

ちなみにアオバトはインドシナ半島から日本にかけて分布する鳥だそうですが、英名は Japanese green pigeon 。
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