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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

ハムスター・クリちゃんの骨折 (その1)

それは一週間が始まったばかりの月曜日でした。
梅雨時にしては忙しかった午前中を終え、昼休み、目を怪我した黒猫の処置をしようとしていた矢先に一人のマダムがプラスチックケースを抱えて駆け込んできました。

「ハムスターです。足を挟んじゃったんです。」

不安そうな表情をいっぱい浮かべ、マダムは入れ物を差し出す。

「挟んだって、ドアか何かに挟んだのですか?」

そう尋ねながら私は透明な小さなケースを覗きこむ。中にはしかし元気そうなジャンガリアンハムスターが一匹動き回っている。

(ふむふむ、なんだ、ひどい怪我はなさそうだけど・・・)

うすでの革手袋をして、私はクリちゃんと言う名前のハムスターを優しくケースから取り出した。

「キキキキッ! キキキキッ!」

いえ、こんな声は聞こえなかったけど、大きな梅干くらいのネズミが私の指先でバタバタもがく姿を想像していただきたい。クリちゃんの体重は27グラム、ハムスターは首根っこを摑まれるとおとなしくしているタイプと、おとなしくしないタイプがいる。

「ここを持たれるのは嫌いか?じゃあ、こうしたほうがいいかい?」

私は戦術を変え、手の平にクリちゃんを乗せて落ちないように気をつけながら、全身を観察する。
すると、クリちゃんの左足はかかとから先が千切れかかっているのに気がついた。出血はほとんど見られないが、足先が百八十度反対を向いて、ぶらんぶらんしている。針のように細い骨も飛び出していた。

「あ、あ、あ、・・・。これは開放骨折してますね。足はこれはもう駄目でしょう。マダムほら、骨が見えますか?もうすぐ壊死してとれちゃうでしょうから、切断してあげた方がいいでしょうね。」

「・・・・、そうですか、駄目ですか・・・。実はこのハムスターは娘が三月に飼い始めたばかりで、可愛がっているのですが・・・」

お嬢さんが学校に行っている間に、ハムスターが怪我をして足を切断したとしたら、それは悲しがるかもしれない。が、仕方ない。

世の中には、仕方ない事がたくさんあるのです。

さて、取り掛かり途中の猫の目を先に治療して、猫の麻酔が覚めかかる頃、ハムスターにも麻酔ガスを嗅がせた。
時間がかかるだろうと予想していたが、意外にすぐ寝始める。

(うむ、これは自宅で結構出血して、元気そうな見かけよりも、体力はないかもしれないぞ。)

すぐにクリちゃんを手術台に載せ、口元に麻酔マスクをテープで固定し、そして改めて怪我した足を見る。肉は半分裂け、やはりぶらんぶらんだ。

(さあ、切るかな・・・)

けれど、ふと見ると、ぶらんぶらんの左足は、足先までまだ綺麗なピンク色をしている。

(おや、血行が損なわれてないのかな?なんでこんなに血色がいいんだ?

うーむ、・・・うーむ・・・いやいや・・・うーむ・・・

うーん、これはいけるかもしれないぞ。駄目で元々だけど、試してみれるかもしれない・・・)

私はちょっと迷ったが、とにかくやってみることにした。

                 続く
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