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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

ヒラクチ

「先生、モモ(仮名)はやっぱり、ヒラクチにやられたんでしょうか?」

モモちゃんは白いきれいな猫でした。四日ほど前に突然生じた足の怪我と重度の呼吸困難で早朝、担ぎ込まれてきました。

最初は交通事故かと思って手当てをしていましたが、傷の具合や、出血の様子や、呼吸の具合がどこか違うように思いました。少なくとも、大きな骨折はないのです。

「マダム、もしかしたら、マムシが出る事はありませんか?」

私はそうお尋ねして治療を続けました。マダムのうちは、郊外の自然豊かな所にあります。

モモちゃんは一時は持ち直したかに見え、飼主さんは勿論我々もホッとしたのですが、しかし残念ながらその後容態が急変して亡くなったのです。

それから2日後、マダムが改めて挨拶にお出でくださり、家であったことを話して下さいました。

「え?『ヒラクチ』・・・ですか?」

「はい、ヒラクチはマムシのことです。実はですね、昨日、私がニワトリ小屋に行った時、卵を産む所に蛇が一匹いるのを見つけたんです。

『キャー、お父さん、蛇がいるよ!お父さん!』

主人を呼びに行って、戻って来るまで30秒くらいだったと思うんだけど、その蛇はもういなくなってたんです。
主人は、

『普通の蛇なら30秒ではいなくならん。それはきっとヒラクチやろ、ヒラクチは頭がいいから、人が目を逸らした時にすかさず隠れるから。』
って、言ったんです。

その後で、主人がニワトリ小屋の中を、水入れやら、なにやらいろいろ引っくり返して調べてみたら、まだ中にいたらしいんです。

『やっぱりヒラクチやったぞ。捕まえたぞ。捕まえて半分に切ったから、もう大丈夫や。』って。

先生、ももちゃんは、やっぱりヒラクチに、やられたんでしょうね・・・。」

私はマムシに咬まれた犬は何度も見たことがあるが、大抵ひどい腫れを生じパンパンになり、苦しんだ後、しかし助かることが多かった。
しかし、猫がマムシに咬まれてどうなるかは、経験がなかった。また、あまり書物にも具体的に紹介されていない。

状況証拠にしかすぎないが、もしかしたら本当にマムシだったのかもしれない。

「捕まえて半分に切ったから、」という御主人の言葉の中に、

「モモの仇を討ってやったぞ!」という気持ちが、なんだか込められているような気がしたのは、私の勝手な深読みでしょうか・・・。
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