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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

駆け落ちの思い出

子猫のメンメンちゃんがコンビニの駐車場をチョロチョロしていたのは、今から15年ほど前になります。

「可哀想に・・・こんな小さい猫を、仕方ないわね・・・」

コンビニの経営者が見るに見かねて餌をやると、子猫は嬉しそうに食器に顔を突っ込み鼻の頭まで汚しながら食べ続けます。

「美味しい? おなか空いてた?」

「ミャー、・・・」

「もっと欲しいの? ほら、これも食べなさい。」

お店の裏口でもらったフードのありがたかったこと、これでメンメンちゃんは、「あたいは一生この家に住もう」と、決心したのです。

まあ、家人としてはあんまりありがたいことではなかったかもしれませんが、そこは行き掛かり上やむを得ないまま、メンメンは当然のような顔をしてお家の中にも上がりこみ、やがておうちで一番居心地の良い場所も見つけて、(ここが私の定位置よ!)と決めて、ゴロゴロするようになったのです。

「おい、メンメン!遊んでやろう!」

「こら、メンメン!ちょっと、来いよ!」

お父さんやお兄ちゃんに、いたずらされたり、からかわれたり、多少辛抱しなければならないこともありましたが、そんな時はプイと立ち上がり、尻尾を振り振りトットコ逃げ出して難を逃れたらいいのです。

幸い近所には草むらがたくさん残っていますから、時間をつぶす所はいくらでもあります。
スズメを咥えて来たり、ネズミやトカゲを咥えて来たり、そしてマダムの枕元にポトリと置いて澄まして寝てしまうのです。

「ぎゃー! あんたまた、こんなもの捕って来てから!・・・」

翌朝、マダムから大きな声で褒めてもらう事?が、楽しみでした。

しかしそんなメンメンの唯一の泣き所は、慢性の便秘症でした。
3歳の頃と9歳の頃に、他所の病院で重症の便秘のため、とうとうどうしようもなくなり、お腹を切って糞塊を取り出したこともあったそうです。

当院に通うようになって、それから5年、およそ月に1,2回のペースで器械による便の掻き出しをするようになりました。マダムも通院の合間に自宅でも浣腸をしましたが、それでも頑固な便秘でなかなか出てこずに、やっぱり病院で掻き出しです。

掻き出しをしながら、マダムからよく聞いた話は、彼女の実家は京都の西陣織の家であること、ご主人との交際を大反対されてまだ新幹線のない時代、国鉄電車に二人で揺られて九州に駆け落ちした事でした。

「本当に若かったわね、あんなことしたなんてね。今なら考えられないけどね。」

後年ご主人が重い病気に罹ってからは一生懸命看護して看取った事も、今はさばさばとした口調で、しかし懐かしそうに話してくださいました。

色々な話を聞きながら、メンメンちゃんの治療を続けましたが、この夏、肝臓を壊し食欲が落ちてからはだんだん痩せていき、7月に入っていよいよ食べれなくなりました。

そして31日、その日まで、よろよろ歩いていたそうですが、「ミャン・・・」と一声マダムの顔を見て挨拶して、フラフラと娘さんのベッドの下にもぐりこんだそうです。

(あれ、おかしいなあ?・・・なんだかお別れの挨拶をされたような気がするわ・・・」

マダムはその時そう思ったそうですが、1時間くらいしてベッドの下をのぞいてみたら、予感どおり、静かに亡くなっていたそうです。

「そうなんですよ。あの時、きっとメンメンは私に挨拶して行ったんだと思います。」

後日マダムは立ち寄って、その時の様子を話してくださいました。
けれど話しているうちにマダムの目が真っ赤になってき、話を打ち切るようにしてマダムはそのまま顔を伏せて急ぎ足で帰っていかれたのです。
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