やり直し
人生には時として思いがけない嵐が襲いかかる事がある。
それはうら若き乙女の、平穏に過ごしている一日にも、容赦なく降りかかるのである。
その日カメ子は、休みを利用して歯医者に行った。
「先生、先日入れてもらったばかりの銀が、ちょっと引っかかる気がするんです。もう一度、診てもらえませんか?」
二つの詰め物が密接しすぎてか、ブラシなどが引っかかって痛みがあるというのだ。
「え? そうかい? ふんふん、なるほど、こりゃやり直しをしようか。」
「でも、前回きちんと作ってもらったと思うんですが、作り変えるとどうなりますか?」
「ああ、保険の利かない、もっといい材料を使うよ。やり直しだから、費用は心配しなくていいから。」
処置が始まります。
ガシッ、ガシッ、・・ギーン、ギーン・・・・ガガガガ・・・
カメ子の口の中で治療が始まります。
ギギギギギ・・・、ギーン、ギーン、ガガガガガ・・・・
(わあ、すごく削ってるわね、いつまで削るのかしら・・・)
ギンギンギン・・・、ギーン、ギーン・・・・
(えっ? まだ削るのかしら・・・)
閉じていた目をうっすら開けて先生を見ると、マスクをしたその顔は真剣な目をしています。
ガリガリガリ・・・・ギーンギーン・・・・・
(うわあ、もしかしたら先生、怒ったんじゃないかしら。やり直しになったから、イラだって、でも、今回は必ずきちんとしないといけないからと、念を入れて気合が入っているのかしら、
ウッ、痛いなあ・・・、でも、怖くて痛いなんて、言えない。
それに今日はえらく水しぶきが顔にかかるわ。普段はこんなに飛んでこないのに。
やっぱり先生、怒ったのかなあ? どうしよう、わたし・・・
痛いより、怖い、ワーン、怖いよう・・・)
こうして、哀れカメ子は治療台に金縛りになったまま、ぴくりとも出来なくなったのです。
「はい、うがいをしてください。」
ようやく処置が終わり、衛生士さんが声をかけます。
グイーンと椅子が持ち上がり、背もたれが立ち上がります。
(ううう・・・・・)
しかし硬直していたカメ子は動けません。
「どうされました? あの、うがいをどうぞ?」
「ううう・・・」
衛生士に促され、カメ子は体を起こす。麻酔のためにだらしなく口を開けたまま、カメ子は必死で体をねじるとコップを取ってうがいを試みる。
クチュクチュ、タラタラ・・・・
うがいと言うより、よだれがたれるような仕草である。
そして、そのうがいと共に、突如目からポロポロ涙がこぼれ落ちた。
(ううう、・・・怖かった、ワーン、怖かったよー・・・)
先生が怒ったのかと心配しだしたカメ子は、その妄想が膨らんで、極限まで自分を追い詰めていたらしい。
ひたすら緊張して、口を開けて耐えていたのであった。
口を開けたまま、自分は殺されるのかと思ったかどうかは知らないが、うがいと共に、胸にこみ上げてきたものがいっきに流れ出たのです。
(うううう・・・・)
「あの、大丈夫ですか? どうかありますか?」
「あ、いえ、大丈夫です。・・・・」
「本当に、大丈夫ですか?」
「・・・・・」
必死で自分を保つと、スタッフに力なく頭を下げ、次回の予約を入れて帰ったのです。
背後から、衛生士さん達が心配そうに見守る視線を感じながら、ドアを出ます。
ブルーな心でバスに乗ると、重い気持ちを抱えたままようやく家にたどり着き、部屋に倒れ込みます。
這いつくばるようにして部屋の真ん中まで進んだ時、愛猫のクリクリが擦り寄ってきて、腕にペロペロしてくれました。
(ううう・・・、慰められるなあ、いい猫だねえ、おまえは・・・)
こうして思いがけない嵐に襲われ,乙女の休日は終わったのです。
それはうら若き乙女の、平穏に過ごしている一日にも、容赦なく降りかかるのである。
その日カメ子は、休みを利用して歯医者に行った。
「先生、先日入れてもらったばかりの銀が、ちょっと引っかかる気がするんです。もう一度、診てもらえませんか?」
二つの詰め物が密接しすぎてか、ブラシなどが引っかかって痛みがあるというのだ。
「え? そうかい? ふんふん、なるほど、こりゃやり直しをしようか。」
「でも、前回きちんと作ってもらったと思うんですが、作り変えるとどうなりますか?」
「ああ、保険の利かない、もっといい材料を使うよ。やり直しだから、費用は心配しなくていいから。」
処置が始まります。
ガシッ、ガシッ、・・ギーン、ギーン・・・・ガガガガ・・・
カメ子の口の中で治療が始まります。
ギギギギギ・・・、ギーン、ギーン、ガガガガガ・・・・
(わあ、すごく削ってるわね、いつまで削るのかしら・・・)
ギンギンギン・・・、ギーン、ギーン・・・・
(えっ? まだ削るのかしら・・・)
閉じていた目をうっすら開けて先生を見ると、マスクをしたその顔は真剣な目をしています。
ガリガリガリ・・・・ギーンギーン・・・・・
(うわあ、もしかしたら先生、怒ったんじゃないかしら。やり直しになったから、イラだって、でも、今回は必ずきちんとしないといけないからと、念を入れて気合が入っているのかしら、
ウッ、痛いなあ・・・、でも、怖くて痛いなんて、言えない。
それに今日はえらく水しぶきが顔にかかるわ。普段はこんなに飛んでこないのに。
やっぱり先生、怒ったのかなあ? どうしよう、わたし・・・
痛いより、怖い、ワーン、怖いよう・・・)
こうして、哀れカメ子は治療台に金縛りになったまま、ぴくりとも出来なくなったのです。
「はい、うがいをしてください。」
ようやく処置が終わり、衛生士さんが声をかけます。
グイーンと椅子が持ち上がり、背もたれが立ち上がります。
(ううう・・・・・)
しかし硬直していたカメ子は動けません。
「どうされました? あの、うがいをどうぞ?」
「ううう・・・」
衛生士に促され、カメ子は体を起こす。麻酔のためにだらしなく口を開けたまま、カメ子は必死で体をねじるとコップを取ってうがいを試みる。
クチュクチュ、タラタラ・・・・
うがいと言うより、よだれがたれるような仕草である。
そして、そのうがいと共に、突如目からポロポロ涙がこぼれ落ちた。
(ううう、・・・怖かった、ワーン、怖かったよー・・・)
先生が怒ったのかと心配しだしたカメ子は、その妄想が膨らんで、極限まで自分を追い詰めていたらしい。
ひたすら緊張して、口を開けて耐えていたのであった。
口を開けたまま、自分は殺されるのかと思ったかどうかは知らないが、うがいと共に、胸にこみ上げてきたものがいっきに流れ出たのです。
(うううう・・・・)
「あの、大丈夫ですか? どうかありますか?」
「あ、いえ、大丈夫です。・・・・」
「本当に、大丈夫ですか?」
「・・・・・」
必死で自分を保つと、スタッフに力なく頭を下げ、次回の予約を入れて帰ったのです。
背後から、衛生士さん達が心配そうに見守る視線を感じながら、ドアを出ます。
ブルーな心でバスに乗ると、重い気持ちを抱えたままようやく家にたどり着き、部屋に倒れ込みます。
這いつくばるようにして部屋の真ん中まで進んだ時、愛猫のクリクリが擦り寄ってきて、腕にペロペロしてくれました。
(ううう・・・、慰められるなあ、いい猫だねえ、おまえは・・・)
こうして思いがけない嵐に襲われ,乙女の休日は終わったのです。
2011-10-06 15:00
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