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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

注意散漫

「あやや、何だ! こ、これはっ!」

夕方の時間でした。混み合っていた患者さんが帰り、ごたごたしていたカウンターが静かになった時です。

ふと、事務室で私が振り返った時、床にぺたぺたウンチの踏み跡があるのに気がつきました。

「うわあ、大変だ! 誰かウンチを踏んだまま、歩き回っている奴がいるぞ!?」

私は思わず大声をあげました。
その声を聞いてタマエとカメ子が寄って来て、同時に驚きます。

「え?どうしたんですか? わっ! ウンチだ!ウンチが事務室中を歩いてる!」」

事務室の狭い床が、汚れまくっています。

(まったく、勘弁してくれよ。自分の足元ぐらい見て歩きなさいよ、注意散漫な奴ばっかりなんだから・・・・ウンチを踏んだら、普通は気がつくだろうに・・・)

私はそんなことをブツブツと頭の中で思いながら、果たしてその足跡がどこから来ているかをたどります。

そのウンチの足跡は診察室に向かっており、エコー検査機の向こう、診察台の手前にはボトリと中ぐらいの茶色のウンチが踏まれて落ちていました。
なんと、それは診察中にいつも私が立っている場所です。

「あちゃー、これが原因か!・・・それじゃあ、まさか僕が踏んだのだろうか?」

私は信じられない思いに駆られます。そして恐る恐る最初に左足のサンダルを脱いで引っくり返してみました。するとそのかかとの辺りに、見事に茶色のものがべっとりついて、飾られているのです。

「う!・・・これは、私としたことが、・・何という失態だ。本当に私が犯人か。・・・さてはさっきの中型犬のピン子ちゃんだ。体重を量るだけだったんだけど、載ってもらったけど怖がって診察台から飛び降りてしまった時だ。

きっとあの瞬間、ピン子ちゃんが空中で脱糞したんだ。そして私が抑えようと慌てて左足を一歩踏み出した瞬間と、ウンチが床に落下した瞬間が同時だったんだな・・・」

私は推論した状況をわざと声に出して分析しながら、なんとか自分の失敗を言い繕おうとしたが、誰も聞いていない。

すでに二人のスタッフは、バタバタ動き回っている。

「早く早く、ウエットティッシュで拭いて、それから水拭きね。タマエさんは、水拭きをお願いするわ。」

カメ子が指示し、手際よく診察室から事務室にかけて掃除している間、私はけんけんをしながら片足で流しに立ち、しょんぼりサンダルを洗っていた。

(まったく、私も年をとったかな。普通、ウンチを踏んだら、気がつくはずなんだがなあ・・・)

しかしあちこち忙しそうに拭き続ける二人は、文句も言わずに黙って片付けてくれています。
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