SSブログ

聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

「おや、先生もO社の時計してるんですね。」

薬の卸しやさん、ムッシュKが来られた時です。薬の受け取り書にサインをしていたら、ムッシュがなんだか懐かしそうにそう言われました。

「はい、これももう、古いんですけどね。」

「いやあ、実は僕も二十歳の頃、無性にある腕時計が欲しくて、学生なのに十か月ローンを組んで買ったことがあります。

あの当時で月々二、三万払ってですね。」

「へー、それは学生には偉く高い買い物ですね。どうしてそんなものが欲しかったんですか?」

「いやあ、何ででしょうね? その時は欲しかったんでしょうね。」

たしかに人生にはそういう時があります。それに目が行って、いつも思い浮かべて、すごく欲しくなることがあるんです。
ずっと後になって考えれば、どうしてあんなに欲しかったのかわからないのですが、きっとその時はそうなのでしょう。

私も二十歳の頃、水色のGシャツが欲しくて、宮崎のスーパー壽屋の衣料品売り場でそのシャツを手に持ちながら、買うか買わないか長く迷っていたことを思い出します。

それほど高くはなかったと思うのですが、学生であり食費を節約しながらの生活でしたから。

「いやあ、たしかに僕は実はお金の管理が上手じゃないんですよ。」

ムッシュが苦笑いしながら話を続ける。

「結婚して2年目だったかな?へへ・・・、借金してたのが妻にばれちゃってですね。」

「むむ、それは聞き捨てなりませんね、なんか、悪いことしてましたか!?」

「ハハハ・・・、あの、実はスロットをしてたことがあって・・・。いえいえ、今はもう止めましたけどね。

ウン十万作っちゃって、で、それまでは給料の中から僕が妻に生活費を渡していたんですが、借金がばれてからは給料は妻が管理して、僕がお小遣いをもらうようになったんです。

『はい、お小遣いよ』ってもらうのは、どうもが引っかかるんですが、アハハ、でもそれで良かったんです。あのままだったら、今頃、どうなっていたか・・・。

もう、しませんので、はい。」

まだ若いムッシュは、私が聞きもしないことを、自分でたくさん話して帰っていかれました。

若いときには色々あります。
失敗のない人生なんて、ないですよね。

失敗が教訓になれば、それでいいんですよね。


「悟りのある者を一度責めることは、
 愚かな者を百度むち打つよりもききめがある。」
               箴言17:10
トップへ戻る
nice!(0) 

nice! 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。