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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

冬の夜のゴミ袋

病院猫の畏咲です。
皆さん、寒くなりましたね。

クリスマスも過ぎた十二月のある寒い夜のことです。院長が夜の見回りを始めた頃には、動物病院の待合室の時計はすでに一時をまわっていました。

院長は猫舎を見回り犬舎を見回った後、待合室から玄関ドアの向こう、駐車場の暗がりに目をやると、道路沿いに出されていた燃えるゴミの袋がいびつに傾いているのに気がついたようです。

( おや? )

そしてその斜めの袋が、並置している車止めのシルエットと重なるように闇をつくり、そこに黒い陰がうずくまっているように見えたのです。

今にも雪の降りそうな重い空で、月明かりもありません。かろうじて近所のマンションの窓から漏れる光と、電柱の外灯が遠くから光を投げかけているだけです。

院長はしばらく暗い待合室に立ち止まり、陰のほうをじっと見つめました。

何も気配はありません。

(そんなはずはないだろう・・・)

疑り深そうに院長は、さらにじっと陰を見つめていると、闇に慣れてきたのか陰の部分に一匹の猫が伏せて、じっとこちらを見ていることがわかりました。

(しまった、野良猫だな。ゴミ袋を破ってる。食べ物の匂いがしたんだろうなあ、寒空にお腹が空いてるんだろうか?)

どうやら袋の一部が破られかけ、傾いたようです。

(ゴミ回収業者が来た時、ゴミが散乱してるかもしれない)

院長は夜中に働いている方々に申し訳ないことになってもいけないと考えたはずです。

かといって、彼も動物病院の獣医です。
雪が吹雪いてきそうな木枯らしの夜、ゴミをあさって食いつなごうとしている野良猫を、むげに追いやれるはずもありません。

しばらくじっと二人の目と目が向かい合っていました。

名うての剣豪同士なら、じっと睨み合って微動だにせず相手の動きと心を読む緊迫の場面ですが、ここは野良猫とへっぽこ獣医です。
勝敗は明らかです。毎日命がけで修羅場を潜り抜けている猫の勝ちです。

そう、先に動いたのは院長でした。
彼はかがんで自動ドアの鍵をはずしますが、猫は動きません。静かにガラスドアをするすると開けますが、まだ野良猫は動かず、相手の動きを観察しています。

院長がドアをまたいで一歩踏み出し、ゴミ袋に近寄った途端、黒い陰は間合いを見極めたかのようにササッと道路を横切り、アパートの茂みに入っていきました。

院長はまるで顔を避けて離れて行く友人を追うような目で、その逃げていく野良猫の陰を目で追っていました。

(おい、待てよ。・・・いや、待てとは言わないけど、誤解しないでくれ!)

院長はしばらくその茂みを見つめていました。

遠くでゴミ回収車の作業する音が聞こえてきました。
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