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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

美人シャム子ネコ

「あれ、何だ、この子猫は?」

それはようやく夏の暑さが遠のいてきた、9月のある昼でした。猫舎に見慣れないシャムネコの赤ちゃんが入っていました。

「あ、それは、マル子が出勤の途中に拾ってきたみたいです。見過ごしにするのは忍びないと思って、連れて来たみたいで・・・。」

タマエが言う。

「うーん、拾ってきたか・・・」

こりゃ世話が大変だぞと思ったが、動物病院の獣医の立場としては、マル子を叱るわけにもいかない。いや、よくぞ助けてあげたと褒めてやってもいいくらいである。

しかし現実は大変だ。一日中オシッコやウンチや離乳食やそういったのを世話してあげなければいけないし。

しかしその子猫は実に可愛かった。丸顔で洋風で青い目で、こんな美人はめったにいない。まあ、いいだろう。きっとすぐもらわれるだろう・・・そう思ったが、それは大きな間違いだった。

離乳食が終わり、普通の子猫となってやんちゃな時期を迎えると、まあその性格の悪いこと、凶暴で過激の一言に尽きます。

普通なら三、四日で慣れるのですが、この美人はいつまでたってもシャーシャー怒り、咬みついて来る。
手間がかかって大変です。

「おい、おい、マル子、この子猫は、大丈夫かな?」

「はい、大丈夫と思うんですが・・・」

頼りない返事をする。

里親捜しにデビューしたが、来院する飼い主さんたちに注目され、可愛がられても、もらっていく人は現われません。

いえ、実は途中一回、ある女性に引き取られて行ったのですが、翌日、「この子は飼えません。」と、帰ってきたのでした。

戻ってきた子猫に向かい諭します。

「おまえなあ、チャンスはすくないんだから、もらわれたらおとなしくしないと、いけないんだぞ。」

さて月日はたち、秋が深まり冬になります。やがてクリスマスを過ごし年の暮れを迎え、そして新年となりました。

幼い子猫から、病院暮らしが四ヶ月近くなり、しなやかな若猫になりつつありました。

(うーむ、このままではいかん。どんどん大きくなりよる。)

と、初春のお慶びを申し上げながらも、子猫の心配をしていたら、ある日突然、「この子猫が欲しい!」という家族連れが来てくれて、めでたくもらわれていきました。

「おい、おとなしくしてるんだぞ。たのむぞ。」

一抹の不安を抱きながら、みんなで見送りました。

「すごく美形だったから大丈夫、すぐもらわれると思って拾って来たんですけど、やっぱり猫も、可愛いからと言ってすぐもらわれるとは限らないんですね。・・・」

私の隣で猫を見送りながら、マル子がしみじみ言う。

マル子、君は一体何を言いたいのだ!?
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