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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

若いコザクラインコ

「あの、小鳥なんですが、診てもらえますか?一か月前から、インコの羽が開いてきて、歩いていてもひっくり返ったりするんです。」

白いペーパーバッグを下げて診察室にマダムが入って来られた。バッグの中に、い草で編んだような茶色の柔らかな籠があり、その中から綺麗なコザクラインコが出てきた。

赤い鮮やかな頭、ブルーが一部混ざったグリーンの羽毛、クリクリした目。しかしなるほど、まるで暑いかのように、両の翼をやや浮かし加減に広げている。よく見ると、肩を上下するような荒い息。

「どれどれ」

触っても、失神しないか、酸素不足になってないか、注意しながら手の平に乗せる。コザクラインコは騒ぎもせず、かといってじっともせず、チョコチョコ動こうとする。

浮かした翼の付け根を触ると、ダンゴでも出来たかのように丸く膨らんでいる。

「両方の同じところが、大きく膨らんでますね。細胞診をさせてください。それと、レントゲンも撮らせてもらっていいですか?」

注射針を刺す時は革手袋に噛み付いたが、やはりたいして暴れない。体の肉も削げ落ちているので、体力がだいぶ低下しているのだろう。

出来上がったレントゲンを見ると、しこり附近は骨も巻き込んで広い範囲にまたがる、見るからに悪性腫瘍のようであった。

「正確にはわかりませんが、左右同じところが腫れ、リンパ腫のようなガンかと思われます。」

マダムはたちまち大粒の涙を流しながら、言われた。

「もう助からないんですか?治りませんか?このままどんどん弱るのですか?それなら、私は見きりません。辛くて、見れおれません。
このまま弱っていくのを、じっとみていられません。」

まだ2歳の若いインコが、このような病気にかかるのは、比較的珍しいことでした。

「私は、代々文鳥ばかり育ててきたんです。もうこれまでに10羽くらい。だけど今回はインコにしたんですが、日光浴が足りない性ではないですか?何か悪かったことがありますか?」

「いえ、日光浴とは関係ありません。」

「そうですか、もう、治らない病気なんですね・・・。」


コザクラインコはそのまま病院で預かることにした。マダムが帰られた後、鳥かごに移すと、飛べない硬い翼を浮かしたまま粟穂をついばみ出した。

丸い餌入れに頭を突っ込んで、いつまでも口をポリポリ動かし続けていた。

それでもこの鳥は生きようとしている。今日を生きようとしている。
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