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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

なくして気がつくこと

「ねえねえ、これなんですよ、この前話してた鳥の鏡・・・」

お茶の時間です。カメ子が自分のリュックを持ち出してきて、ごそごそしている。

「これこれ、どうですか!」

カメ子がビニールの緩衝材をゆっくり解いている。中から出てきたのは15cm四方のサイズの小さな卓上鏡です。
枠は太くて古いブロンズのような落ち着いた青緑色をしている。重量感もある。

ただ、普通とちょっと違うのは、左隅に二羽の小鳥が飾られていることです。二羽はこちら側に背中を向け、鏡の方を向いてぴったり寄り添っています。
その二羽の表情が、いかにも優しく鏡に映って見えるのです。

「ね、なんだかいいでしょ! 昨日、これを見つけたとき、ワッ、あった!」と、ドキッとしました。

話は少し前にさかのぼるが、カメ子がある雑貨屋さんでこの鏡を最初に見つけたのは5か月くらい前、新天町に行った時のこと。

(あら、いい感じ!)

と思ったが、別に買う必要もないので、気になったが買わずにいたそうです。

それから天神に行くたびに店のそばを通り過ぎ、そのつど鏡が飾られているのを見て、

(ああ、小鳥さんたち、まだいるわね。)

と、にっこり通り過ぎていたそうです。鏡がそこにあるのが当たり前のような気持ちで、いつも見ていました。

ところが一か月ほど前でした。
いつものように立ち寄ると、その小鳥の鏡が無くなっていたのです。

(あっ! ない! 鏡がない。ああ、売れちゃったのだわ!)

「私、鏡がなくなって初めて、(しまった、買っておけば良かった)と、思ったの。売られている間は、(別に、買わなくても・・・)と、考えてたのに、なくなって初めて、後悔したの。」

と、そんな話を、私たちは聞かされていたのです。

「そしたらですよ、昨日の休みに天神でぶらっと他所の店を覗いていたら、ふと見ると、その小鳥達がいたのよ! しかもちょっと安い値段で売られてたの。私今度はすぐ買っちゃった。」

カメ子は嬉しそうに報告している。その鏡を見せるために、わざわざ職場に持ってきてくれたようだ。

「だから、今日は朝からルンルンなの!」

いかにも幸せそうである。

しかし、本当に昔の人が教えるとおりなんですねえ。
人は失って、初めて気がつくことがあると。

それだからと気をつけていても、やっぱり
そんな思いを沢山舐めながら、歳を重ねていくんですねえ。
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