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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

奥さんのノート

「先生、連休中から、やっと食べ出しました。」

「へえ、それは良かったですねえ!」

ムッシュSが雄猫のタラちゃんを連れて来られました。

タラちゃんは先月にちょうど二十歳になった超長寿猫です。腎不全の為、二年前から時々尿毒症になるので、点滴をしています。
今回も痩せ細って、いよいよだめかと心配しましたが、幸いにも治療を続けているうちに、また少し持ち直してくれました。

連休中も、点滴を続けておしっこがたくさん出て、それが良かったのでしょう。

「この猫は、女房の形見みたいなものです。」

「へえ、奥さんからの?」

ムッシュの奥様は、二年ほど前に亡くなられたそうです。

「家内もね、実は腎臓が悪くて、透析に通ってたんですよ。20年位かなあ、一日おきに病院へ行って5時間かかるんです。

透析するとその時はぐったり疲れるけど、翌日はすごく元気が回復するんで、家内はいつも喜んでました。

癌になって、その治療も始まりましたが、家内は家でも病院でも、よく書き物をしてました。書くのが好きなんです。

チラシの端でも、ティッシュの箱でも、メモして、あとで書き写すんです。

病院の看護婦さんがたに、「ありがとうございました」とか、よく書いていました。

私にもたくさんノートに書き置きしていて、全然寂しくありません。

朝は何時に起きなさい。衣替えはこうしなさい。朝ごはんは、チンゲン菜ならどう準備して、こしらえなさい。チキンの時は、こうしなさい。
お風呂はどうしなさい。
夜は何時ごろ寝るようにしなさい。

細かく色々書いてくれているから、ノートを見て、生活しているので、さびしくありません。
あとは好きな卓球にせっせと通ってますから。」

点滴中のタラちゃんを覗きこみながら、笑ってムッシュは答えました。

年齢は70だそうですが、いえいえ、髪は私よりも黒々として、お姿は十以上は若く見えます。
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