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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

12年前の亀

「こんにちわ、昔、亀でお世話になった者ですが、あの時はありがとうございました。」

梅雨明けも間近なある日の午前、綺麗なマダムが入って来られ、突然そう言われた。

「え?亀ですか・・・・??」

何も思い出せない。

「もう12.3年前のことです。あれから、ずっとお礼を言いたかったのですが、大野城に住んでいるので、そのままになってしまいました。

今日、たまたま仕事で通りかかったら、『あっ、あの時の病院だ!』と、思い出して、寄らせてもらいました。」

「12年前・・・ですか?」

申し訳ないが、たった12年前の事が、どうも思い出せない。

「はい、私の田舎は大分なのですが、そちらで前足が一本ちぎれたクサ亀を見つけて、そのまま大野城に連れて帰ったんです。

でも世話をしているうちに、傷が悪くなって腐ってきたので、もう逃がそうと思って、知っている油山川の河川に置いて、草をかぶせたんです。九月でしたが、急に寒さが押し寄せてきた変な頃でした。

それから一週間して、その辺りに様子を見に行ったら、なんと亀はまだ同じ所にいたんです。

これはだめだと思って、それからあちこちの病院に何十軒も電話しましたが、当時、どこの病院も『亀は診ないです』と言われて、

やっとこちらの病院で『連れて来ていいですよ』と言われて、連れて来たんです。それは、十月十日のことでした。

二針縫合してもらって、注射を打ってもらって、『へえ、亀も注射するんだ!』って、思いました。

注射していたら、亀がおしっこしたことも覚えてます。

その後傷が癒えて、亀は大分まで連れて帰り、実家のそばの川に放しました。え?実家ですか、三重町の方です。三重町ご存知ですか?はい、犬飼の隣です。

そしたらですね、それから一年たった頃、母が田圃でまたその亀に会ったんです。片足が無いし、甲羅におなじ傷もあったので、間違いないと思います。」

「へえ、それで、お母さんは、その亀をどうされましたか?」

「それが、母は、その亀を、また下の川に放したそうです。

私は、『なんで、川に戻したの? 不自由な体で、やっと田圃まで上ってきたのに。』って、言ったんですけどね、フフフ・・・

以前は、爬虫類は気持ちが悪くて触れなかったのですが、それからは大丈夫になって、十歳だった息子もそれからミドリ亀を飼って、やっぱり12年生きました。」

その息子さんも、今年、大分で就職されたとのことでした。

動物との触れ合いは、一生の思い出です。

それが、人生にどう影響するかとか、どんな役に立つかとか、そんなことではないでしょう。

ただ、動物との触れ合いは、人生の思い出を、彩ります。

思い出の引き出しにいつまでも眠っていて、たまに思い出してその引き出しを開けると、パッと子供の頃のことや、その時代の思い出が、スクリーンに甦ります。

それだけで、いいんです。
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