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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

トゲの痛み

ある日のことです。

「こんにちわ!」

遅出の当番で、出勤してきたマル子ですが、浮かない顔をしています。

「先生、今朝、わたしが掃除してたら、トゲが指に刺さって、抜けないんですよ。」

ははあ・・・、冴えない表情の理由は、トゲだったようです。

「ふーん、どれどれ、みせてごらん。」

「抜いてもらったら?」

「えっ、無理だと思いますよ。家でも、お母さんと妹に抜いてもらおうと、ずいぶんやってもらったけど・・・。」

「まあ、見せて!・・」

院長もカメ子もヨンヨンも、集まってくる。

「どれだい?・・・あっ、これかあ!・・・」

右手の中指の爪の右際に小さな微かな茶色の点がある。けれど、その点の上に、透明の角質層がかぶさっているのもわかった。

「うーん、これは埋まりこんでるね。」

三人で、指先を覗き込む。

「あー、ホントだ!」

「うんうん、あるね、とってもらいなさいよ。」

「でも、とれないと思いますよ。」

「まあ、やってみないと。」

みんな、人の指かと思って、勝手なことを言う。

「ぼくのあだ名は、トゲ抜き地蔵と言われてたから、まかせて。」

病院で一番細かいトゲ抜きを持ち出してきて、それから注射針の先で角質層をつついて浮かび上がらせ、トゲのおしりを掴もうとするが、やっぱり埋もれて出てこない。

「まわりを押さえないと、掴めないね。カメ子、代わってくれ、ぼくが圧迫するよ。」

「先生、こっちのトゲ抜きのほうが、いいかもしれませんよ。」

「灯り、灯り」

三人、さも嬉しそうに、マル子の指を取り囲む。

院長が指先をギュッと圧迫する。痛てて・・・と、マル子。

と、トゲのおしりのあたりの角質層がかすかに開いたようだ。

すかさずカメ子がその一点を凝視し、クチクチと、トゲ抜きを試みる。

「うーん、難しいわ。・・・・」

嬉しそうにもっともっと圧迫する院長。抜くまで止めないぞと、一心不乱にトゲ抜きを操作するカメ子。そして無影灯の明りを照らすヨンヨン。

しばらく苦戦の時が流れる。

「あっ、取れた!」

突然、カメ子が大きな声をあげた。

「おっ、取れた?」

「取れたの?」

「ほら、これこれ!」

嬉しそうにカメ子が掲げるトゲ抜きの先端には確かに、見えるか見えないかぐらいの微細な茶色のものが付着していた。

「うーむ、これが痛みの原因か!」

「このトゲ野郎!」と、みんなで憎憎しげに、抜いたトゲをしばらく見つめる。

「どう、痛くない?」

「うん、なんだか、痛くなくなった気がする。」

ほとんど見えないくらいの、こんなに小さなトゲなのに、刺さると、あんなに痛さに悩まされるとは、人の体はどれほど精緻な構造で創られたのでしょう。

どこに痛みのセンサーがあって、どこに伝達回路があるのでしょうか。

改めて、創造された生命の奇跡を感じずにおれません。
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