白のスラックス
「こんにちわ、白衣とユニフォームのT社と申しますが・・・。」
夏の盛り、若い青年が営業に来られました。薬や器械の営業は多いのですが、うちのような小さな動物病院に白衣の営業は珍しいのです。
清々しい顔の、ファイト満々の青年でした。
「こんにちわ、へえ・・・、どちらにあるお店ですか?」
「はい、中央区にあります。」
「そうですか・・・白衣ねえ、そう、白のスラックスが良いのがないんだけど、あったらお願いしますよ。
昔、N社のがあって、すごく穿き心地が良くて、しかも恐ろしく丈夫で型崩れしなくてね。十数年穿いているけど、いまだに折り目も消えないんだよ。
とても気に入ってるんだけど、さすがに裾が少し傷んできたからそろそろ代わりの物を探しているんですよ。
ところがユニフォーム屋さんから取り寄せても、どれも一般の作業着みたいなスラックスしか来なくてね。」
「はい、じゃあ、頑張って探してみます。また、後日寄らせていただきます!」
「もしあったら、お願いしますね。」
そして後日、青年が見本を持ってきてくれた。さっそくた試着すると、なかなかいい感じです。
「これでいいですよ。長さもちょうどいいかも。」
「長さ、いいですか? 裾の調整は、無料で致しますが・・・。」
「いえ、これでいいでしょ。ありがとう。」
と、(スラックスの長さは丁度良い、僕も結構足は長いのかなあ)と思いつつ何本か頂き、さっそくそれを穿いていた。
ところが穿いていると、腰の位置が下がって、裾を3cmも4cmも踏んでしまうことがわかった。
(あれ、やっぱり、長かったかな・・・)
そう思い始めた頃、青年はまた立ち寄ってくれた。
「こんにちわ、その後いかがですか?長さは大丈夫ですか?無料で裾直し致しますよ。」
「うん、やっぱり、長かったみたい。お願いします。」
足の短さを認め、今度は素直に裾直しに出す。
それから十日後、出来上がったスラックスが届いた。
「おお、やっぱりこれでいいようですね。ありがとうございました。」
さて、私がさっそく裾直しの出来たスラックスを穿いた朝です。
テーブルで朝食を頂こうとした時、妻が牛乳のたっぷり入ったコップと、アイスコーヒーのグラスを両手に持ってきてくれました。
「はい、飲み物・・」
と置こうとした瞬間、牛乳のコップが倒れ、白い液体がドドッとテーブルの上を走ったかと思うと、座っている私の股にまっすぐ降り注いできた。
「キャッ! ごめんなさい!」
と、妻が慌てた瞬間、もう一方のアイスコーヒーも取り落とし、グラス一杯についでいた茶色の液体が、氷とともに第二波となって私の股に押し寄せてきた。
「キャア、キャア!・・・ごめんなさい、ごめんなさい!・・・」
かくして私の新しいスラックスは、初日にすぐ洗濯場行きとなったのでした。
夏の盛り、若い青年が営業に来られました。薬や器械の営業は多いのですが、うちのような小さな動物病院に白衣の営業は珍しいのです。
清々しい顔の、ファイト満々の青年でした。
「こんにちわ、へえ・・・、どちらにあるお店ですか?」
「はい、中央区にあります。」
「そうですか・・・白衣ねえ、そう、白のスラックスが良いのがないんだけど、あったらお願いしますよ。
昔、N社のがあって、すごく穿き心地が良くて、しかも恐ろしく丈夫で型崩れしなくてね。十数年穿いているけど、いまだに折り目も消えないんだよ。
とても気に入ってるんだけど、さすがに裾が少し傷んできたからそろそろ代わりの物を探しているんですよ。
ところがユニフォーム屋さんから取り寄せても、どれも一般の作業着みたいなスラックスしか来なくてね。」
「はい、じゃあ、頑張って探してみます。また、後日寄らせていただきます!」
「もしあったら、お願いしますね。」
そして後日、青年が見本を持ってきてくれた。さっそくた試着すると、なかなかいい感じです。
「これでいいですよ。長さもちょうどいいかも。」
「長さ、いいですか? 裾の調整は、無料で致しますが・・・。」
「いえ、これでいいでしょ。ありがとう。」
と、(スラックスの長さは丁度良い、僕も結構足は長いのかなあ)と思いつつ何本か頂き、さっそくそれを穿いていた。
ところが穿いていると、腰の位置が下がって、裾を3cmも4cmも踏んでしまうことがわかった。
(あれ、やっぱり、長かったかな・・・)
そう思い始めた頃、青年はまた立ち寄ってくれた。
「こんにちわ、その後いかがですか?長さは大丈夫ですか?無料で裾直し致しますよ。」
「うん、やっぱり、長かったみたい。お願いします。」
足の短さを認め、今度は素直に裾直しに出す。
それから十日後、出来上がったスラックスが届いた。
「おお、やっぱりこれでいいようですね。ありがとうございました。」
さて、私がさっそく裾直しの出来たスラックスを穿いた朝です。
テーブルで朝食を頂こうとした時、妻が牛乳のたっぷり入ったコップと、アイスコーヒーのグラスを両手に持ってきてくれました。
「はい、飲み物・・」
と置こうとした瞬間、牛乳のコップが倒れ、白い液体がドドッとテーブルの上を走ったかと思うと、座っている私の股にまっすぐ降り注いできた。
「キャッ! ごめんなさい!」
と、妻が慌てた瞬間、もう一方のアイスコーヒーも取り落とし、グラス一杯についでいた茶色の液体が、氷とともに第二波となって私の股に押し寄せてきた。
「キャア、キャア!・・・ごめんなさい、ごめんなさい!・・・」
かくして私の新しいスラックスは、初日にすぐ洗濯場行きとなったのでした。
2012-08-28 15:00
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