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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

ゲット・アウト!

それは梅雨がまだ開け切らない、七月の初めでした。間もなく病院を閉めようかという頃、夜の八時過ぎだったでしょうか。私が検査室で作業をしていると、玄関が開いた音がしました。

(ん、患者さんかな?)

待合室の方に目をやると、丸刈りの男性がスッと部屋を横切り、猫の入院室に入って行くのが見えました。

(えっ! 今のは、どなただろう?)

面会であれ、何であれ、入って来られたら大抵の方は声をかけてくれます。

(おかしいなあ・・・、だれだろう?)

私は作業を中断して猫の部屋へ行ってみました。そこには西洋系でスキンヘッドの男性が、片手にビールを持って突っ立ち、何かブツブツ言っています。

「あの、どなたですか?」

あまりいい雰囲気でないのを感じ取りながら、わたしは聞きました。しかし彼は、酔って目の据わった顔で、こう言いました。

「ゲット・アウト!」

「え? すみませんが、どういうご用件ですか?」

だが彼はうつろな表情で、再び言い放つ。

「ゲット・アウト!」

英語の苦手な私もこれぐらいはわかる。
しかし、病院の院長は私である。フラリと入って来た酔っぱらいに出て行けと言われて、まさか出て行くわけにはいかない。

(むむむ、どう対処しよう・・・)

改めて相手を観察する。
ここは冷静に・・・。

きゃつの筋肉は隆々としている。年も私より若そうだ。スキンヘッドで目が据わり、怒らせたらちょっと怖そう。もしかしたら、海兵隊か空挺部隊の経験者かもしれないし。

(むむむ・・・・・)

ここで乱闘になったら、彼がよっぽど泥酔してない限り、私に勝ち目はなさそうだ。

そっと後ろに回って、いきなり頭をポカンとやったら、のびてくれるかもしれないが、それではどうも正当防衛という状況は認めてもらえそうにない。

かといって「患者さんでなかったら、帰ってください」と強要したら、もみ合いになる可能性は高い。

ブルース・ウィリスのような性格だったら、どんな大暴れをするかわからない。

(むむむ、どうしよう・・・)

私は非常に困難な状況に直面させられました。  

          ・・・・・・・・続く
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