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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

子猫君、彼の海へ

・・・その日、思いがけないことがあった。


「子猫はいますか?」

自動ドアが開いて、小学生ぐらいの男の子が入って来る。

「うん、いるよ。」

スタッフが答える。また、通りかかりの子供が、子猫と遊ぶために寄ったのだろうと思う。

ところが、その日は違った。

続いて自動ドアが開き、若いお父さんとお母さんも入って来た。

三人で、里親探しの子猫の入ったケージの前に、しゃがみこんだ。

「この子なの?」

お父さんが子供に聞きながら、親子で待合室に出してある黒いケージを覗きこむ。

「はい、その子です。」

カウンターから、男の子の代わりにスタッフが答える。

「でも、もう一匹いますよ。そっちはキジ猫で、ちょっと大きめです。」

お父さんはお母さんに何か聞きながら、お母さんは男の子に何か聞きながら、そして子供は誰にも聞かず、生後二か月の白黒の子猫を見つめていました。

男の子は、ひと目でその子が気に入ったようです。

「もう一匹のほうも、見せてもらえますか?」

お母さんが、言われる。一応、見比べておきたいと言う気持ちは当然です。

「どうぞ、こちらです。」

カメ子が、猫舎に案内する。

ドシン、バタン・・・

中には、元気盛りの雄のキジ猫が一匹いる。

「あ、ちょっと、大きいわね。」

「うん、こっちはちょっと、大きいかな・・・」

夏前からケージに出ているけど、もらわれないので、体つきは大きくなってしまった。

「やっぱり、向こうの白黒がいいだろ。」

親子三人で意見が一致し、晴れて黒白の子猫の行き先が、決る。

待合室の端にあった黒いケージのドアがギギッっと開き、その小さな体が抱き上げられると、もう、今日から彼の世界は、変わるのです。

新しい海に、黒白の小さな命の、船出です。
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