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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

七年目の犬

「こんにちわ、先生、お久しぶりです。もう、ずいぶん昔やから、覚えていらっしゃらないでしょ!?」

ご年配のムッシュが、大きな黒いラブラドールを連れてお出でになりました。

いえ、覚えていました。お見かけして、一目で懐かしいと思いましたが、しかしお名前が出てきません。

たしか、いつも柴犬を連れてこられていた方かな・・・?と、私は古い記憶をひっくり返しました。

「いいえ、覚えておりますよ。えーとルルちゃんでしたっけ。柴犬でしたよね。」

「いや、柴犬みたいな雑種でしたけどね。あれが長生きで、結局17年生きましたからね。

もう、七年前です。私があの頃癌になって、手術を受けたんです。ようやく退院してきたら、今度は入れ替わりにルルが弱って来て、そのまま死にました。

可哀想そうやったですなあ、あの時は。ペットの寿命は短いから、死ぬのを見るのが可哀想ですよ。

私も年ですし、もう二度と犬は飼わんと思ったんです。
それに、自分のことで精一杯でしたし、

医者からは、癌が再発せんように体力つけろ、つけるのに運動しろ、それから肉は食うな、豆を食えと言われまして。

それであんまり肉は食べないようにしてますが、いいや、少しは食べますよ。

酒? 私は酒、タバコは元々しませんから、

周りのもんが、小さい犬を飼えばいいと、しつこく言いましたが、私は、もう飼わんと思うとったんです。

 ところが、息子が鹿児島で犬を二頭飼うとりましたけど、今度孫が生まれることになり、二匹も世話できんからって、一頭世話してって、飛行機に乗せて送ってきたんです。

警察犬訓練所にいたとかで、私もようわからんのですが、英語でしつけられとるんですよ。

それで、散歩の時は、ヒール:ついて歩け、ダウン:伏せ、シット:お座り、とか書いた紙を持ち歩いてそれを見ながら、犬に話していますよ。」

「おや、ハハハ、じゃあ、犬から英語を教えてもらっているんですね。」

「はい、犬から、教えてもらってます。ハハハ・・・

 私の癌は、医者から『保証できるのは五年』と言われたんです。それ以後は、どうなるかわからんって。

で、五年がたって、それからさらに二年たったわけですけどね。さあて、この犬の世話ができるかなあと思いましたが・・・」

七年と言えば、短いようで長くもあります。ムッシュもずいぶん病気と闘われたようです。
久しぶりにお会いし、楽しい会話ができました。

落ち着いた立派な体格のラブラドールです。
可愛いくてハンサムな、そして紳士の黒ラブでした。
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