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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

お菓子屋で揺れ動く女心

小雨の木曜日、時間があったのでスタッフのぺ子が狂犬病の書類手続きに動物愛護センターへ出かけました。

「これをお願いします。今回は七件です。」

「はい、しばらくお待ちください。」

待ち時間を利用して、ぺ子は近所のお菓子屋を覗きます。実はこれが楽しみなのです。

「これ、これ、これが食べたかったのよ。」

ぺ子がお店で評判のマンゴー味のシュークリームに手を伸ばして、スタッフ達へのお土産に四つ買い、五つ目に手を伸ばしかけた時でした。

テーブル席でお茶をしていたマダム達が、追加の御茶菓子を買いにぺ子のいるショーケースのほうへぞろぞろと来ると、嬉しそうに言いました。

「あっ、これにしましょうよ。このどら焼き美味しいのよ! だって、マンゴー味のシュークリームより美味しいんだから。」

「あらそう、じゃあ私も。」

「私も、それ。」

次々に手を伸ばして、そのどら焼きを持っていくマダム達を横目で見ていたぺ子は、五つ目のマンゴー味シュークリームを掴んでいた手を止め、どら焼きを睨みます。

生クリームどら焼きと、書いています。

(むむむ、どうしようかしら。これ、そんなに美味しいのかな?)

しかし、賑々しく持って行った陽気なマダム達の印象は、強烈でした。

ぺ子はシュークリームを放し、どら焼きを四つ混ぜたのでした。

(よし、これも買おう!)

ぺ子は簡単に影響されるタイプでした。


そう言えば、昔、彼女が天神の地下街でお菓子屋さんに行った時もそうでした。

(ここのスフレ、美味しいわ!)

そう思いながら、スフレに手を伸ばした時です。

「あった、あった、これ、これよ。美味しいんだから。」

やっぱり元気なマダムのグループがやって来ると、ウインドウケースの前で大きな声で話し始めました。

「ここの、美味しいのよ。でもね、この店の工場は長浜にあるの、そこの直売所だと、ちょっぴり切り損なったり、ほんのちょっと飾り損なったケーキが半額で買えるのよ! 

だって味は同じなのよ。私よくそこへ行くんだけど、でも今日はここでいいわ。」

ぺ子は耳をダンボにしてそばで聞いていました。長浜のどの辺にあるのか必死で聞き取ろうとしたのですが、聞けずじまいでした。

「待って! どこなの、そのお店のあるところは!」

って、あ~あ、あの時肩をつかんで呼び止めてでも、長浜のどのあたりか、お店の場所を聞いておけば良かったな。

それから十年たっても、いまだにぺ子はあの時聞かなかったことを、悔やんでいるのです。
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