当て逃げの分かれ道
八月の猛暑の頃でした。
ある朝いつものように出勤し、あちこちエアコンのスイッチを入れて回りましたが、どうも手術室のエアコンだけ動きません。
(あれ、どうしたかな? 去年買い換えたばかりの新しい機械なのに。)
ピッピ、ピッピとリモコンスイッチをいじくるが、駄目です。部屋の温度は、容赦なく上がってきます。(・・・こりゃ、しんどい一日になるぞ)
やむを得ず、電気屋さんに電話をしました。親切な電気屋さんがすぐに調べに来てくださり、こう言いました。
「先生、これは故障じゃありませんね。室外機に車がぶつかって、壊れていますよ。」
「えっ、 車がぶつかってる!?」
慌てて外に出てみると、なるほど室外機が割れて凹み、後ろへずれています。昨夜遅くまで正常に動いていましたから、夜中にどこかの車がユーターンか何かで入り込んで、壊したのでしょう。当て逃げです。呆れてしまいます。やむを得ず、新しいエアコンを注文しました。
と、それから何日かして、マル子が言いました。
「先生、昨日ですね、私は歯医者に行ってたんですが、待合室にいた時、女の人が入って来て、『すみません、白いマーチの方いますか?車をぶつけてしまって・・・』と言うじゃないですか。
『はい、わたしのです。いえ、いえ、いいんですよ。』と、言いながら見に行ったんです。かすり傷くらいなら、もう、いいやと思って。
そしたら左の前が結構ぼっこりほげてて、コーナーセンサーも壊れていたので、明日修理に出すことにしました。相手の人が保険で修理させて下さいと言うので、お願いしました。」
「そうか、良かったね、ちゃんと言ってくれる人で。当て逃げも多いだろうから。」
ハンドルを握ってなくても、交通事故は、ついてきます。
保険に入ってなかったために、「普通の人」が、事故の瞬間から「無責任な人、卑怯な人」と、呼ばれるようになるかもしれません。
当院の診察室にも、車に撥ねられて息も絶え絶えのワンちゃんが、何度も担ぎ込まれてきました。飼い主さんは泣きじゃくり、運転手さんは、すっかり小さくなっています。本当に気の毒です。
安全運転と同じくらい、任意保険は大事ですね。