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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

おばあちゃん、もう、間に合わんよ!

先日病院の窓から何気なく外を覗いている時でした。高齢のご婦人が一生懸命道の左側を走っていた。いえ、正確に言うと、彼女は急いで駆けようとしているようだが、少しも早くはなかった。左手にカバンを下げ、右手にはたたんだ傘を握り、ただせわしなく手を動かしながら、走ろうと努めている様子でした。

 と、その次の瞬間です。予期しないことに、突然、どこかのスピーカーから大きな声が聞こえてきたのです。

「おばあちゃん、おばあちゃん、もう、走っても間に合わんよ。もう、間に合わんよ!」

私は最初、何の声かわかりませんでしたが、どうやら、道路上の車からの声だと理解しました。

しかし、何を言わんとしているのか?

そうだ、パトカーがフラフラしながら走っているおばあちゃんを見かけて、危ないから走らないように注意しているのか!?とも思えた。

しかし、ちょっとばかし、情景と言葉のつじつまが合わない。

そうだ、もしかしたら、バスか!?そうだ、バスだとしたら、狭い道を塞ぐようにヨロヨロ走っているおばあちゃんが危なくて、邪魔だから、もうバス停まで間に合わんよ、端に避けて頂戴と、言っているのか?と、考えた。

そして、確かにすぐに私の視界にバスが入って来た。おばあちゃんを追い抜く位置でした。

(冷たい言い草の運転手だなあ・・・)と、残念な気分になった。

けれどです。スピーカーから、続けて声がしました。

 「おばあちゃん、もう、間に合わんから、ここから乗りなさい。ここから、おばあちゃん、ここから乗らんね。」

彼女はきょとんとして、一体何が起こったのかわからない様子だったが、バスが停車し、プシューッと音がして、自動ドアが目の前で開いたのを見た時、何が起こったのかを悟ったようです。

恐縮したようにしながら、手すりにつかまり、バスのステップを踏んで乗り込んだのでした。そして、バスはそのまままた、動き出しました。

後ろには乗用車が一、二台、クラクションを鳴らすこともなく、黙って待ってくれていました。

15秒ほどの時間だったかもしれませんが、私は、すごく大事な光景を見せてもらった気持ちでした。

バスの運行規約や、安全走行の原則、鉄則があるのかもしれません。予想外の事故を防ぐために、規則は大事なことかと思います。

それでも私は、大事な運転の決まりを、時にちょっと破ることは、人生を豊かにするために許される大事なことかなと考えさせられたのです。

杓子定規に生きない。獣医だって、勿論、そうありたいものです。

 

 

 

 

 


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