一緒にリンゴを食べたかった
「主人が、どうしてもポポちゃんにリンゴをやりたいみたいだから、やっぱりリンゴのアレルギー検査をしてもらおうかしら。」
マダムOが、シーズーのポポちゃんを連れて来られました。
ポポちゃんは、一歳のころからアレルギーが出始め、体の赤みや湿疹で苦労していました。
三歳になったころ、あまりにも状況がひどくなったので、イムノグロブリンEやリンパ球刺激試験などの血液検査を行って、食べられるものと食べないほうが良いものを、ある程度詳しく調べました。
さらにです。アレルギー用インターフェロン注射を行い、高価な免疫抑制剤も飲み、ずいぶん良くなってきました。
こうした努力の結果、ほぼ、90%コントロールできたと言えるくらいに、きれいな自然な皮膚が、回復してきたのです。
だけど、マダムの家ではもう一つだけ、問題がありました。
それは、ご主人がリンゴ好きで、よく召し上がることです。
そのために、どうせならご主人はぜひポポちゃんと一緒に、美味しくリンゴを食べたいのでした。
そばに寝ているポポちゃんをしり目に一人でリンゴを齧るより、ポポちゃんと一緒に分け合いたいのでした。
「すみません、先生。やっぱり、リンゴのアレルギー検査もして下さい。」
マダムの要望を受け、私たちはもう一度ポポちゃんから採血をし、イムノグロブリン検査に送りました。(リンパ球刺激試験は、リンゴについては検査が出来ないとのことでした。)
その結果、リンゴは大丈夫そうだと言う判定をもらいます。
マダムは喜んで、それを御主人に告げ、その夜からポポちゃんは、お父さんと一緒にリンゴを食べ始めたのです。
現在のところ、リンゴで赤みや痒みは生じてないようです。
「リンゴを、一緒に食べたい!」
このようなささやかな願いは、人生においてしばしば私たちの心を占める小さいけれども大切な願いでもあります。
「そんなこと、どっちでもいいじゃない!」
そう言って、つい聞き流してしまったら、その人にとっては大事なことを、わかってあげられないままになるかもしれません。
「あなたと、たまには夕方、散歩がしたかったのに・・・。」
「一度くらい君と一緒に、プロレスを見に行きたかったな!」
なんてのも、リンゴのように、心の中で、
ありでしょうか・・・?