大親友と通院
ポコちゃんが初めて来たのは二年前、冷たい木枯らしに縮みあがるような二月の夜のことでした。
ポコちゃんは9歳の雌猫、シャムが混じったココア色のきれいな毛色です。
「もともと太ってはないんですが、最近さらに痩せてきたみたいです。時々吐きます。」
心配そうにそう言われるマダムKに手伝ってもらいながら採血、検査したところ、重度の尿毒症であることがわかりました。
「すごく腎臓が悪いですね。」
すぐに入院させて点滴が続けられました。
五日目、元気も出て数値も良くなり無事退院です。
しかし、帰宅して一週間たった頃、また少し元気がなくなってきました。調べると尿素窒素も再び上昇しています。どうやら、慢性的に腎臓が弱いようです。
「うーむ、点滴を繰り返しながら、様子を見ましょう。」
それがポコちゃんの通院の始まりでした。
それから二年八か月、雪の日も、猛暑の日も、ポコちゃんの腎臓を助けるためにマダムは通い、点滴療法が続きました。
但し、それはそれは賑やかしいひと時でした。
マダムの終生の友人となる(多分)ことが予想される大親友が、いつもいつも車を運転して付き添ってくれたからです。
ポトリ、ポトリと乳酸リンゲルが落ちて、ポコちゃんの病める体に吸い込まれていく、静かな時間になるはずでしたが、一度もそんなことはありませんでした。
「ねえねえ、あそこの店、知っとる!? ケーキ美味しいよ!」
「アハハ、うん、知っとる、知っとる。ちょっと引っ込んだ店やろ、何回か買いに行ったけど、美味しいね。私、あそこのマンゴープリンが大好き!」
「それでさ、ブラはさ、固くてしっかりしているのじゃないと、結局駄目なのよね。」
「きゃ、そうそう・・・、通販もいろいろあるけどね、私はやっぱり、あそこのメーカーがいい・・。」
来られるたびに、食べ物の話や、人間関係や、災害、コスメ、衣服、何でも二人で会話の花が咲き乱れました。
こんなに明るく通院する方は初めてでしたが、その間、ポコちゃんはマダムの膝にじっと抱かれて、目を時々開けてチラとあたりの様子を窺っては、また目を閉じる。
ポコちゃんだけがとても物静かな、治療のひと時でした。
そんな通院がおよそ158回も続いたのです。
私は、治療をさせて戴きながら、幼馴染の友情を大切にし、何かと楽しみ、助け合う二人の若いマダムの姿に、明るい励ましをいつも戴きました。
そして、病院に笑い声があるということは、それだけでとても大切なことだと知ったのです。
こうして長い月日が流れましたが、十月も終わろうとしていたある日の昼下がり、秋の優しい陽射しがやせ細った体を包む頃、仕事を休んで看護するマダムに見守られながら、ポコちゃんは安らかに亡くなりました。
「本当にありがとうございました。お世話になりました。」
数日後、わざわざご報告に来てくださったマダムと大親友は、涙で濡れた目で、けれどやるべきことをやり切って、悔いのない顔でニコニコ笑いながら、賑々しく最後の様子を教えてくださったのです。