責任重大ジョン君
「先生、やっと、初七日が終われたんですよ!」
二月の始めの頃です。マダムEが愛犬の薬をとりにおいでになった時、賑やかな声でそう言われました。
「あれ、・・・もう、一週間たちますか?」
「はい、ばたばたと大変でしたねえ、フフフ・・・、なにしろ父は84歳だったでしょうが。去年の秋に心筋梗塞で一度危なくなって、でも、それを乗り越えたから、もう仕方がないかと覚悟はしていましたから。
だけどね、母のことをちょっと気をつけとかんと、いかんみたい。
数日前、夕食にある店に入った時、『ここ、初めてやね。』って、言うたんですよ。『なん、言いよると、お母さん、前にも来たやろもん。』と、言ったんですが、『ははは、そうかね、いや、初めてやね。』って、言うてね。どうも、おかしいですわ。
先生、だから、父が亡くなって、気が抜け取るから、ちいと、母の事気をつけとかんといけんわ。」
「あら、そういうことがあったんですか・・・、一人暮らしでは、お母さんも、寂しくなるでしょうしね。」
「そうよ、だけんジョンがいるのが大事。ジョンだけは元気にしておってもらわんと、ジョンまでどげんかなったら、大変やわ。
先生、父と母はね、いつも近所のスーパーに一緒に買い物行きよったと。四輪車押して、ジョンも連れて、二人と一匹でね。
スーパーへは犬は入れんけん、父は外でジョンと待ってて、母だけ一人で買い物して来てね。
近所の人もいつもそれを見とるけん、最初の頃は『おや、お父さんは、どうしたと!?』って、よく聞かれてたんやけどね、入院してしばらくしたら、もう聞かれんごとなった。
まあ、そんなですから、母が大丈夫か、しばらくジョンと暮らして様子をみんといけんみたい・・・。」
マダムは、快活に笑いながら、そんな様子を教えてくださいました。
お元気な頃は、いつもお父さんも一緒に当院に来てくださり、みんなで大笑いしながらジョン君の予防注射などしていたのが、懐かしく思い出されます。
寂しいに決まってますが、それでもジョン君がぜひグランドマダムの良い共同生活者になってくれたらと、願います。