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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

ムカデ

「ちょっと、先生聞いてよ、またムカデが出たとですよ!」

梅雨の集中豪雨の合間、ラブラドールのフレンディちゃん(仮名)のお母さんが来られた時、そう言われました。

「えっ! マダム、ムカデがまた出ましたか?」

マダムの家はちょっと山手にあります。何度か往診でお訪ねしたのですが、窓を開けると目の前に雑草が繁った崖が迫っていました。

「そうなんですよ、布団を入れてる時、肘にぽとんと落ちてきてね。もう、こんなに大きいの。(マダムは25cmぐらいの長さを指で伸ばして示す。)もう私はびっくりして『ヒーッ!』って振り払ったんですけどね。

ところが、パッと振り飛ばした先がまた布団でね。そこに干してたんだけど、よく見ると他に2匹も付いていたのですよ。もう、やわいきませんよ。

それからね、この前も窓を開けて顔を出した途端に首筋にポトンと落ちてきたもんね。『ギャー!!』ってもうあわてて、殺虫剤を1kgも買ってきて、窓にたっぷり撒いたんですよ。」

ムカデといえば、うーん、私の子供時代は、室内によく出てきていた。まるで人工物のように黒々と光る不気味な背中、黄色くて整然と動くたくさんの足。いかにも毒々しくて、とても素手では立ち向かえない威厳。

短い足で、動きは遅そうに見えるのだが、突然の出現に驚いて何か叩くものを探してまごまごしていると、案外逃げ足が速くて退治しそこなうこともあった。

しかし、蚊やハエは叩き損なっても、あるいはよしんばゴキブリは叩きそこなうことがあっても、家屋に侵入してくる生物の中で、ムカデだけはきっちり退治しておきたい虫だった。間違っても押入れの中などに、逃げ込ませてはいけない。

しかし、そんなわけで子供の頃は、時々ムカデが出現するのは、それは当たり前で、仕方ない事と思っていた。

ところがいつの間にか時代と共に環境も改善されたのか、ムカデを室内で見かけることは減ってきた。
それからいつしかムカデの事ことを忘れ、最近は山のキャンプ場で遭遇するくらいであったが・・・。

「それでね、2階の兄ちゃんや3階の兄ちゃんに、『あんたんとこもムカデは出るね?』って聞いたら、

『うん、この前寝とってふと目が覚めたら、首にムカデが這いよったよ。おばちゃん、僕はもう、この部屋に帰りたくないよ。』って。ハハハ・・・もう大変ですよ。」

マダムは笑いながら帰って行かれました。

(いやあ、ムカデは勘弁してほしいなあ・・・。)

私はマダムを見送りながらそう思いつつ、
ムカデの出る家で平気で暮らしていたかつての子供時代の強靭さがいつのまにか衰え、すっかり軟弱でひ弱になっている自分を再発見したのです。
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