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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

人の生き方

「うーん、手術はねえ、どうしましょう・・・。」

マダムTの可愛がっている柴犬のコウちゃん(仮名)に精巣腫瘍が見つかりました。マダムは知らなかったようですが、お腹を見るとニワトリの卵ほどにも大きくなっています。

「これは大きくなりすぎですよ、とってあげたほうがいいですよ。」

レントゲン検査では、胸部にまだ転移は見られません。

私はそう勧めましたが、万が一のリスクを心配して、マダムの決心はつきそうにありません。

「ご家族とよく相談されたら、どうですか?」

「いえ、先生、私は一人暮らしなんですよ。うちは姉妹ばかり生まれて、みんな家を出てるんです。わたしだけ結婚はせずに、東京に出てずっと仕事をしてたんですよ。

でも、12年前に母の介護をするために、福岡に戻ってきたんです。最初は九州に帰ろうかどうしようか、それはやはり迷いましたけどね。
それから一年ほどして、私はこの犬を飼い始めたんです。

でも、もともとはね、この犬は、近所の子供が見つけてきて、家に持って帰ったのよ。だけど母親から『駄目よ、飼えないわよ。』と言われて、里親捜しに出されたのを、引き取ったんですよ、フフフ・・・。」

マダムはカウンターの前に立って、じっと足もとのコウちゃんに目を注ぎます。

「先生、私も6年前に胃癌が見つかって、2回手術をしてるんですよ、・・・、それで、この子とどっちが先かしら?でも私が看てやらないといけないわね・・・と思ってるんですけどね。フフフ・・・」

マダムは笑いながら言いましたが、しかし彼女の最後に付け加えた言葉

「でも、私が看てやらないとね」・・・は、

きっと12年前も、お母さんを介護する為に東京から戻ってくる決心をした時に、心につぶやいた言葉と同じなのでしょう。
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麺つゆ地獄

「今日はですね、朝からブルーだったんですよ。」

午前中の診療の合間、ネコ娘が話し始めた。

「今朝、冷蔵庫を開けるとですね、横にして入れていた麺つゆの蓋が開いていて、中身がこぼれてたんです。

しかも結構新しかったんですけどね、横にしたら溢れ出てしまうラインってあるじゃないですか、そこまで全部出てしまってたんです。

それで冷蔵庫の下のほうは、麺つゆ地獄になっていましたよ。

麺つゆは、あれは重宝します。色々つかえますもん。買ったばかりで、新しかったからショックです。

横にして入れたとき、ちょっと危ないかなあ?・・・って、少し思ったんですけどね。やっぱり・・・」

「麺つゆの蓋って、くるくるねじる蓋じゃないの?」

私が聞くと、隣のカメ子が教えてくれる。

「きっと、あれですよ、パチンて閉めるやつですよ。最近はあの蓋が多いと思いますよ。」

「ふーん、閉め方が途中までだったんだな・・・」

「でもですね、」と、ネコ娘。

「でも?」

「でもですね、朝から冷蔵庫を奇麗に掃除してきたから、爽やかな気分になりました。」

そこで話は逆転し、ネコ娘の曇っていた表情も、明るくなった。

(うーむ、女の子とは麺つゆ一つで、ブルーになったり、爽やかになったり、目まぐるしい気分の交錯がある人種なのか・・・)

わたしは改めて感じた。

(だけど、たのむぜ。
仕事の時だけは、ゆるんだり抜けたりしないで、ぴっちり締めて取り組んでくれよ!)

ネコ娘の後姿を見つめながら、わたしは今日も心の中で祈るのです。
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ツチノコ発見!

先日知人から、驚くべき話を聞きました。

その知人が、福岡と佐賀の県境近くの林道を、四駆で走っていた時の事です。
一台の車とてすれ違う事のない、標高、四、五百メートルほどの奥深い木立の中や細い崖道を、彼はくねくねと走り続けていたそうです。

そして、いよいよ深山へと入り込みます。
その付近には、先祖が平家の落ち武者だったらしいという噂のある集落が暫らく前まで残っていて、百八十年ぐらい経っているという茅葺屋根の大きな農家跡も、数軒ひっそりと残っていました。

道が狭くカーブも多いので、ゆっくりと走らせていた時の事、ふと見ると、道の端に異様な動物が構えて立っているのです。

「あっ、あれは、あれはもしかしたら・・・ツチノコだ!!」

彼は、そうつぶやきました。

その動物の頭には、角が二本生え、顔は大きく膨らみ、胴体から下は蛇のように細くなっていました。

「うわあっ! ついにツチノコを発見した!」

彼は目を丸くして見つめますが、ツチノコには猛毒があると聞いていたので車から降りず、ハンドルに手を掛けたままソロソロと近づきました。

車がだんだんツチノコに接近しますが、それは一向に逃げる気配もありません。

ドキドキしながら傍まで行って、車の窓から覗いてみた時です。

しかし彼が見たのは、
大きなカエルを頭から呑み込もうとしている蛇でした。

まだカエルの両方の後ろ足が蛇の口から角のように二本ピョンピョンと飛び出しています。
蛇は大きな口を開けてゆっくり呑み下している最中でしたが、大き過ぎて苦しかったのでしょうか、
ゆっくりと呑みこんでいる時に、車が来る気配に気がついて蛇が鎌首を持ち上げたので、ツチノコに見えたようです。

「ハハハ・・・、そういうことなんだよ。」

「なあんだ、そんなことか。ハハハ・・・」

残念ながら、幻のツチノコ発見は潰え去ってしまいました。

しかしそんなことぐらいなら、我が家でもいつも見かけているのです。

夜、私が仕事が終わって家に帰ると、テレビの前で頭にカーラーを二本巻いてソファーにひっくり返って寝ている家内も、ツチノコのようなものです。

いや、うわばみ!かな???
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爆弾を落とす部品

「シロが昨夜、亡くなりました。長い間お世話になりました。」

真夏の太陽が照りつける八月のある日、マダムMから電話をいただきました。

シロちゃんは白い雌猫です。当院に初めて来たのは16年前の八月のちょうど同じ日でした。
その日マダムがノラ猫であったシロちゃんを保護し、避妊手術に連れて来られたのです。

それゆえシロちゃんはかなり長寿で、多分17歳以上だったと、推測されます。

ところでその16年来のおつき合いのマダムが先日来られた時、初めて聞いた話しがあります。

「先生、わたしももう、歳ですからねえ。学徒動員に行かされたんですよ。」

「え? 学徒動員ですか? そんなお歳には見えませんが・・・。」

「そうですか、ありがとうございます。でも、女子高の3年から4年にかけて駆り出されたんですよ。」

「・・? 女子高の3年、4年というと、今の何年生になるんでしょう?」

「うーん、中学の3年から高校の1年生ですね。
 私は唐津にいたんですが、あそこは中島の飛行機工場があってですね、飛行機から爆弾を落とす時の部品だとかを作らされてました。」

「・・・・・」

もっとお話しを聞きたかったが、次の患者さんも待っていた為に、ほんの短い会話をしただけでマダムは帰っていかれた。

たえず空襲に脅かされながら、しかし日本国民もせっせと反撃の武器・爆弾作りに協力させられた時代でした。

言葉にすれば、わずか数行の出来事かもしれないが、戦争中の軍需工場での想い出は、マダムにはどんなに大きな部分を占めているだろうか・・・。

さて、シロちゃんがいなくなっても、マダムには元気に暮らしていただきたいと、思ったのです。
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地震速報

「先生、わたしですね、今朝早く起きてラジオでテレビ局の番組を聞いていたんですけどね・・・。」

ある朝の、診察の合間の時間でした。カメ子が話し始めます。

「そしたらラジオが突然、『緊急地震速報!』って言い出したんですよ。『まもなく地震が到達します』って・・・。
 私びっくりして、身構えました。」

そう言いながら、カメ子は身構えた様子を再現する。

腰を落とし、足をカニのように開き、腕を広げ上を向いてキョロキョロする仕草を見せてくれた。

「それでですね、どうしよう、どうしよう・・・とりあえず壁掛け扇風機の下から離れとこうっと思って、移動してあとは何も出来ないまま部屋の中でキョロキョロ立ち往生しているだけだったんですよ。

だけど、暫らく待っても地震が来ないんです。それでテレビをつけたら、静岡地方の震度を速報していたんです。

それで、ははあ、これは地震速報の時、テロップで静岡の字幕だけ出てたのかもしれないなって、わかりました。

音声だけの地震速報だと、警告地域がわからないのは考えものですね。」

ふふん、カメ子は職場でも、家でも、相変わらず間の抜けたことをしているようだ。

ところがそれから一週間ほどたって、ついに福岡に再び震度3が襲ってきた。

仕事中、ゴーッという不気味な音が地面を震わせたかと思ったら、次の瞬間グワッ、グワッと建物が揺すぶられる。

(あっ、また来たな!)

前回の震度6を経験している患者さんたちも、恐そうに顔を見合わせている。

と、隣の古い二階屋にいた家内も恐くなったらしく、蒼くなって病院へ駆け込んできたが、ふと手元を見ると、自分があわてて持ち出したものが空のペットボトルだと気がついて、それから何も言わずに帰って行った。

地震は恐い。人は蛇に睨まれたカエル状態になってしまう。
何にしろ、壊れない建物を作る以外、
本当の地震対策はないんじゃないかしら。
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夏の宮崎

この夏期休暇を利用して、学生時代をすごした宮崎を訪れました。

高速道を降り市内に入ると、あの頃と同じ椰子の並木が今も迎えてくれます。青い空、夏の強い日差しも同じです。
街の中心部に入り、三十年の昔に心の糧も、胃袋の糧も、ともに満たしていただいたある先生の家を訪ねました。

あの頃から今に至るまで皮膚科の医院をされている方です。
お盆の頃で、当然ながら門は閉まっています。

「ピンポーン」

「はい、どちらさまでしょう?」

奥様がインターホンに出られました。

「あの、国税局から来ました。先生はいらしゃいますか?渕上と申します。」

「はあ??国税局?・・・ どういうご用件ですか?」

「あの、昔お世話になったので、お礼に伺いました。」

「??・・・・・・ちょっと、お待ち下さい。」

いたずらが過ぎたようです。暫らくして笑いながら先生が出てきてくださいました。

「ハハハ・・・最近、振り込み詐欺とかあるでしょ、だから、家内は新手の詐欺かもしれないと警戒したんだよ。」

「もう、変なこと言うからよ。いえ、おかしいなって思ったのよ。でも、なんで国税局かわからなかったから。フフフ・・」

先生ご夫妻には、サルに咬まれて怪我をしても、風邪をこじらせ肺炎になっても、お腹がすいてお金がなくても、聖書の話しがわからなくても、なんでもいつでもお世話になった。

「最近疥癬のいい薬が出たんだよ。前は苦労していたけど、今は飲めばすぐ治る。日本人が作った薬だけど、外国に持っていかれてねえ。」

「先生、それはイベルメクチンでしょ?それは動物の世界では昔から使われてますよ。」

「そうそう、そんな名前だったかな、あれは良く効くねえ。それでね・・・・・」

昔話から最近の話題まで、突然お邪魔して、2時間近く話し込んでしまいました。でも、いつもお話を聞くたびに、自然に力が湧いてくるような気がします。

「もう、お昼だねえ。」

おしまいは、近くの中華料理店で、またランチをご馳走になってしまいました。

食べさせていただいたから言うのではありませんが、尊敬する先生ご夫妻です。

でも、改めて考えてみれば、私の尊敬する先生方は、うーん、みんな・・・よく私に食べさせてくださった先生方ばっかりだなあ・・・。
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乳歯

「そうだ! 先生、去勢手術の時ついでに、乳歯を抜いてもらえますか?」

チワワのジュンちゃん(仮名)が連れて来られた時、マダムからそう依頼されました。

「あ、はい、承知しました。」

「ついでに・・・」と、言われたのですが、実際は丈夫な乳歯が四本も残っていれば抜くのはなかなか骨です。
正確に言えば、乳歯を抜くついでに去勢をする・・・という時間配分になります。

さて、手術時間になり歯科用エレベーターを使ってゴソゴソと乳歯を処置し始めた時、猫娘が言いました。

「先生、先生は乳歯が抜けたらその歯を、屋根に投げたりしてませんでした?」

「え? あまりしなかったけど。」

「え、そうですか・・・」

そばにいた、ちょうどその日職場体験で来ていた中学生にも、猫娘は聞いた。

「ねえ、投げてなかった?」

「うちはマンションだから。」

中学生は実にそっけなく答える。猫娘はがっかりしたようだが、気を取り直して話を続けた。

「あ・・・、あの、うちもマンションだったんですけどね、で、一階でしたけど、二階のベランダに向かって投げてました。」

「え! 二階のベランダへ? それじゃあ二階の人は乳歯を見つけて、何でここにそんなのが落ちているか、えらく怪訝に思ったろうね。」

「ヘヘヘ・・・、下の乳歯が抜けたら、永久歯が早く伸びてくるように上へ向かって投げたんです。逆に上の乳歯が抜けたら下に向かって早く伸びるように、下に投げるんです。」

「下って、・・・どうやるの?」

「へへへ・・・、うちのマンションは一階には庭がついてて、その庭の先は崖でしたから崖に投げました。」

「崖って・・・、下に道か何かあったんじゃないの?」

「へへへ・・・、はい、道路になってました。私、下を歩いているおじさん目がけて、歯を投げました。」

「・・・・・・・」

・・・まったく、猫娘は抜けた乳歯までも使って世の中に迷惑をかけていたようですね。
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逆むけ

ある日の、スタッフとのお茶の時間です。

カメ子が、煎餅をかじりながら言いました。

「あっ、指に逆むけができてる・・・。そうだ、あのですね、鳥って逆むけを食べるんですかねえ。

小鳥を飼ってる知人の家に行った時、言うんですよ。『鳥は逆むけを食べるよ』って。」

と、その話題を聞いた瞬間、うつむいて遅番の夜食をすすっていたマル子が、急に目を輝かせて話しに加わる。

「そうなんですよ、逆むけを容赦なく食べるんです。セキセイインコなんか、特に好きですよ。

手に乗せてやると、指の逆むけをグチグチかじりながら、横の爪までゴリゴリ噛み付き始めるんです。

『こら、爪は剥がんぞ! そこまで食べるな!』って、怒ってやります。もう、とんでもないですから・・・。フフフ・・・」

「えっ!? 逆むけって・・・あの・・・、鳥が皮膚を食べるんですか?」

突然始まった逆むけの会話に、追いつけず戸惑っているネコ娘が、なんとか話しへの介入を試みる。二人の話しを中断させ、内容を確認しようとする。

「ねえねえ、逆むけって、人間の皮膚ですよねえ。人間の皮膚を小鳥が食べるんですか?」

「そうなのよ、好きみたい。すぐ齧りますよ。」

こういう話は、マル子のペースだ。おおよそ、妙な話やあきれる話し、眉をひそめるような話は、マル子の得意分野です。

「ふーん、ふーん・・・」

ネコ娘はもうそれ以上は突っ込む関心はないようだ。びっくりしたけど、それでもう、良いみたいである。

ところで、逆むけの話は、それ以上は盛り上がらず、
あとはまた彼女たちの、煎餅を齧る音が響くだけだった。

動物病院の、静かなお茶の時間・・・。
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シャンパンボトル

災難は予想もしない時に、やってくる。人生とはそういうものである。

宮崎に住む娘が、久し振りに我が家へ帰ってきてくつろいでいたある朝のこと。

狭い居間に小さな飾り棚があり、その桟(さん)に何かのおまけで戴いたシャンパンのボトルが何気なく置かれていた。床からわずかに40〜50cmの高さのところである。

飾り棚から一枚のお皿を出そうとして、フンフン鼻歌を歌いながら彼女が飾り棚の開きをカチャリと開けた時、一緒にそのボトルが押し出されてゴトリと落ちた。
落ちたのはいいが、落ちた所が彼女の左足の人差し指の真上だった。

「ゴトッ!」

「ギャーッ!!」

閃光のような悲鳴の後、一瞬の沈黙を置いて次の瞬間「痛い!痛い!・・・」と跳ね回り始めた。

あっちのソファーに倒れこんだり、こっちのソファーに寝転んだりして、うめいている。

「どうしたの?」

家族が不思議がって笑いながら聞くが、ヒーヒー言っている本人の小さな目からは、小さな涙がひとしずくこぼれている。

「ううう・・・、ビンが、ビンが落ちてきた。」

「ビンって、どこの?」

「そ、そこにあった・・・、もう、笑い事じゃないと!痛い!痛い!」

彼女は足先を押さえながら、うらめしそうに家族を睨む。

「ビン?このシャンパンのビンね。そりゃあ、落ちるやろ。開ける前にのけんと、そりゃあ落ちるにきまっとるよ。」

家族の冷たい声が、無情に響く。

「そんなこと言っても、置いとる人が悪い!」

彼女は痛みの過ぎ去るのをひたすら待ちながら、この腹立たしさを、どこかぶつけようと探している。

「ハハハ、開ける前に、のけんほうが悪いったい。」

落下したのはわずかな高さだったので、家族は笑い飛ばしている。
彼女は足の先を凝視し、

「あ、あ、赤くなってきた、ほら、どんどん、赤黒くなってる!ね、見て、見て!」

私は
「ふんふん、あんまり腫れてないし、内出血やろ、明日まで様子をみたらいいよ。」

その朝はそれで終わった。

しかし夕方になって、指の変色が顕著になったので、結局整形外科に行ったところ、指骨の骨折が確認されたのだった。

「『痛かったでしょう、どうしてすぐ来なかったんですか?』と、病院で言われたよ、ね、ひどかったとよ。

それなのに今日は一日、博多駅まで歩いたり、走ったりさせられたんだからね。」

娘が自分の痛さの正当性を主張するように、くどくどと報告する。

(ふーん、あれくらいの高さでも、骨が折れるのか・・・)

私は気の毒になったが・・・、まあ自分で落としたのだから仕方ない。本人も今、反省の最中ではないかしら・・・。
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こちら警察署


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