決闘、マムシとJRT
それは銀二(仮名)が一人で留守番している日でした。
銀二はジャックラッセルテリアの男の子です。八月でちょうど6歳になったばかりです。
「じゃあ、銀ちゃん、頼んだわよ。すぐ帰ってくるからね。」
その朝マダムYは、銀二の頭を撫でながらそう言うと、門をしっかり閉めて出て行きました。
「ふん、まかせとけって。」
銀二はマダムの後姿を見送りながら、ベランダに寝そべってそうつぶやきました。
それから暫らくして・・・
「ピンポーン」
門扉のチャイムを押している、男の人がいます。
「ん? 誰だ?・・・何だ、セールスみたいだな・・・」
銀二は庭から首を伸ばして様子を窺っていましたが、ネクタイをしたその男は、ズボンのポケットからハンカチを取り出すと、首筋の汗をぬぐいながら、向こうに行ってしまいました。
(ふん、ご苦労なこった。やれやれ、今日も暑くなりそうだぜ!)
太陽は間もなく中天にさしかかります。庭に植わった桜の木では、緑の葉陰でクマゼミが何匹かワシャワシャ鳴いています。
と、その時でした。
カサ、カサ、シュルシュル・・・・
「ん? 何か音がしたぞ! 何だ、妙な音だぞ!」
銀二は耳を後ろに向けたり、右に向けたりしながら、正確な方向を聞き定めて、さっと振り返りました。
と、音の方向を見た瞬間、銀二はとっさに1mほど飛びのくと、全身の被毛を逆立てます。
「ウー!!」
なんと彼のすぐ後ろに、大きなマムシが近づいていたからです。
「フワーッ!」
マムシも銀二の存在に気づかなかったのでしょう。突然目の前で跳ね起きた犬にびっくりし、直ちに戦闘態勢をとりました。
耳まで裂けた三角形の口を開け、冷たい目ではっしと相手を見据えると、ゆらゆらと鎌首を前後にゆすりながら、銀二を威嚇します。
「ほー、ちびすけ、ちっとも気がつかなかったぜ。こんなところにいちゃあ、危ないぜ。見逃してやるから、早くママの所に帰りな。」
チロチロと、赤い舌を動かしながら、マムシはそう言いました。黒い大きなマムシです。
銀二の家の近くには、最近地下鉄の駅も出来ましたが、まだ周辺には少し田圃も残っており、きっと青大将やマムシも生活の再建に大変なのでしょう。
まだ時々ヘビが住宅に出没するのです。
「ウー、グルグルグルー」
銀二は初めて出会う相手にびっくりしますが、うかつに探りを入れません。
彼の本能は、この黒いヒモ野郎が非常に危険な相手であることを教えました。
一歩銀二が近づいた時、ふわりふわりしていたマムシは突然口を開けたまま一直線でミサイルのようにシュッと飛び込んできます。
「うおっと、危ねえ、危ねえ。」
それをすかさず避けてひやりとしながら飛び退いた銀二は、また相手との間に二歩ほどの間合いをとります。
(ふん、それがおまえの流儀だな、なるほどね)
「他人の庭に入り込んで来ながら、そんな挨拶はねえだろう。」
マムシは相手が小さな犬と思って舐めてかかったのでしょうか、思いがけず第一撃に失敗したことを悟ると、ゆっくりと横ずさりをしました。
どこか、近くに逃げ込める穴を探しているのでしょうか。
「おい、黒ヒモやろう、遊んで行けよ、まだ帰らなくてもいいだろう。」
銀二はそう言うと、また一歩近づき挑発します。
「小僧、図に乗るんじゃねえぜ、俺様に咬まれたら、痛いじゃすまないんだぜ。」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、再びマムシは黒い矢のように飛び込んできます。
「シャーッ!」
マムシの第二撃が襲い掛かってきた刹那、銀二はわずかに顔を傾けてその毒牙をやりすごしたと思うと、間髪を入れずに通過していくそのマムシの三角頭の後頭部に、おのが牙を刺し込みました。
「グワッ!」
武蔵と小次郎の勝負のように、それは一瞬で決まりました。
中枢を咬み砕かれたマムシは、そのまま力なく倒れこみ、ただ尻尾だけがしばらくぱたぱたうねっているだけでした。
「ぺっ、黒ヒモなんか、俺の口には合わねえや。」
動かなくなったマムシを暫らく見守っていた銀二ですが、ふと忘れ物でも思い出したかのように急にトコトコ歩き出すと、またベランダに戻って、ごろりと木陰で寝転びました。
それから間もなくして、マダムが帰ってきました。
「ごめんね、銀ちゃん、待たせたわね、いい子にしてた?お土産があるわよ・・・
あれ、これ、何かしら? この長いの・・・
ギャアッ! ヘビだ! ヘビだ! 銀ちゃんヘビよ、助けて!
・・・・・・
あれれ、動かないわね。それに血だらけになってる。
死んでるのかな?どうしたのかしら、
どうしてこんなところで、死んでるの?
・・・・・・」
(ムッシュYからお聞きした、血だらけのマムシが庭に死んでいた事件を題材に、
あとは動物記風に脚色しました。)
銀二はジャックラッセルテリアの男の子です。八月でちょうど6歳になったばかりです。
「じゃあ、銀ちゃん、頼んだわよ。すぐ帰ってくるからね。」
その朝マダムYは、銀二の頭を撫でながらそう言うと、門をしっかり閉めて出て行きました。
「ふん、まかせとけって。」
銀二はマダムの後姿を見送りながら、ベランダに寝そべってそうつぶやきました。
それから暫らくして・・・
「ピンポーン」
門扉のチャイムを押している、男の人がいます。
「ん? 誰だ?・・・何だ、セールスみたいだな・・・」
銀二は庭から首を伸ばして様子を窺っていましたが、ネクタイをしたその男は、ズボンのポケットからハンカチを取り出すと、首筋の汗をぬぐいながら、向こうに行ってしまいました。
(ふん、ご苦労なこった。やれやれ、今日も暑くなりそうだぜ!)
太陽は間もなく中天にさしかかります。庭に植わった桜の木では、緑の葉陰でクマゼミが何匹かワシャワシャ鳴いています。
と、その時でした。
カサ、カサ、シュルシュル・・・・
「ん? 何か音がしたぞ! 何だ、妙な音だぞ!」
銀二は耳を後ろに向けたり、右に向けたりしながら、正確な方向を聞き定めて、さっと振り返りました。
と、音の方向を見た瞬間、銀二はとっさに1mほど飛びのくと、全身の被毛を逆立てます。
「ウー!!」
なんと彼のすぐ後ろに、大きなマムシが近づいていたからです。
「フワーッ!」
マムシも銀二の存在に気づかなかったのでしょう。突然目の前で跳ね起きた犬にびっくりし、直ちに戦闘態勢をとりました。
耳まで裂けた三角形の口を開け、冷たい目ではっしと相手を見据えると、ゆらゆらと鎌首を前後にゆすりながら、銀二を威嚇します。
「ほー、ちびすけ、ちっとも気がつかなかったぜ。こんなところにいちゃあ、危ないぜ。見逃してやるから、早くママの所に帰りな。」
チロチロと、赤い舌を動かしながら、マムシはそう言いました。黒い大きなマムシです。
銀二の家の近くには、最近地下鉄の駅も出来ましたが、まだ周辺には少し田圃も残っており、きっと青大将やマムシも生活の再建に大変なのでしょう。
まだ時々ヘビが住宅に出没するのです。
「ウー、グルグルグルー」
銀二は初めて出会う相手にびっくりしますが、うかつに探りを入れません。
彼の本能は、この黒いヒモ野郎が非常に危険な相手であることを教えました。
一歩銀二が近づいた時、ふわりふわりしていたマムシは突然口を開けたまま一直線でミサイルのようにシュッと飛び込んできます。
「うおっと、危ねえ、危ねえ。」
それをすかさず避けてひやりとしながら飛び退いた銀二は、また相手との間に二歩ほどの間合いをとります。
(ふん、それがおまえの流儀だな、なるほどね)
「他人の庭に入り込んで来ながら、そんな挨拶はねえだろう。」
マムシは相手が小さな犬と思って舐めてかかったのでしょうか、思いがけず第一撃に失敗したことを悟ると、ゆっくりと横ずさりをしました。
どこか、近くに逃げ込める穴を探しているのでしょうか。
「おい、黒ヒモやろう、遊んで行けよ、まだ帰らなくてもいいだろう。」
銀二はそう言うと、また一歩近づき挑発します。
「小僧、図に乗るんじゃねえぜ、俺様に咬まれたら、痛いじゃすまないんだぜ。」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、再びマムシは黒い矢のように飛び込んできます。
「シャーッ!」
マムシの第二撃が襲い掛かってきた刹那、銀二はわずかに顔を傾けてその毒牙をやりすごしたと思うと、間髪を入れずに通過していくそのマムシの三角頭の後頭部に、おのが牙を刺し込みました。
「グワッ!」
武蔵と小次郎の勝負のように、それは一瞬で決まりました。
中枢を咬み砕かれたマムシは、そのまま力なく倒れこみ、ただ尻尾だけがしばらくぱたぱたうねっているだけでした。
「ぺっ、黒ヒモなんか、俺の口には合わねえや。」
動かなくなったマムシを暫らく見守っていた銀二ですが、ふと忘れ物でも思い出したかのように急にトコトコ歩き出すと、またベランダに戻って、ごろりと木陰で寝転びました。
それから間もなくして、マダムが帰ってきました。
「ごめんね、銀ちゃん、待たせたわね、いい子にしてた?お土産があるわよ・・・
あれ、これ、何かしら? この長いの・・・
ギャアッ! ヘビだ! ヘビだ! 銀ちゃんヘビよ、助けて!
・・・・・・
あれれ、動かないわね。それに血だらけになってる。
死んでるのかな?どうしたのかしら、
どうしてこんなところで、死んでるの?
・・・・・・」
(ムッシュYからお聞きした、血だらけのマムシが庭に死んでいた事件を題材に、
あとは動物記風に脚色しました。)
2009-09-07 15:00
nice!(0)