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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

西公園の洞穴

「フィラリアの薬を飲ませる日になったけど、心配なので病院で飲ませて数日様子を見てください。」

リリーちゃんを連れてマダムKがおいでになりました。
リリーちゃんは柴犬のミックス。既にフィラリアを持病で持っていますが、治療による副作用を心配してマダムは安静療法を選択されました。

それで、月に一度病院に入院させて様子をみます。

「リリーはね、西公園で茶店を出していた頃保護した子犬なんですよ。」

「へえ、マダムは西公園に茶店を開いていたんですか?」

西公園というのは大濠公園から南へすぐのところにあり、博多湾に突き出るように聳えている自然豊かな丘です。
都心にありながら南北に展望が良く、桜やツツジの名所でもあるために散策に訪れる人が多いところです。

特に桜の咲き誇る春は出店も並び、夜まで賑やかです。

建設業をしながら茶店も出す、良く聞く「二足のわらじ」ですが、その話しをお聞きしただけで、マダム御夫妻がその頃フル回転で働いていた時代が私には想像されました。

「いいぇ、小さなお店なんです。しばらく開いてみただけなんですよ。
その頃、お店のもう少し上のほうに洞穴があってノラが子犬を何匹か産んでですね。そのうちの一匹が、リリーなんです。

「・・・そうですか、洞穴に生まれたんですか・・・」

マダムご夫妻も、その母犬に時々なにかの残り物をあげながら子育てを見守っていたのでしょう。

世の中、数奇な運命をたどる人の物語があるように、犬たちにもきっと数多くのドラマがあるのです。

洞穴に生まれ、海の見える丘に育ち、そして桜が散る頃お母さんから引き離されて、遠い新しい家に来たのでした。

今、リリーちゃんを見守るマダムの目と、遠くを見つめるリリーの目は、どちらも西公園のあの十年前の日々を思い出しているのかも知れません。
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