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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

無いなら描こう

朝のカメ子の部屋です。
出勤を控えて、カメ子が散らかった部屋をバタバタと動き回っています。

「さあ、腹ごしらえは出来たし、モーニングコーヒーも飲んだわ。 ノノのお昼ご飯は・・・・ふー、よし、これで足りる。

エアコンのリモコンはどこかな? ノノが踏んでスイッチが入らないようにと・・・。

今、何時かしら? えーと、7時50分か・・・、
どうしよう、34分のバスだと、ちょっとぎりぎりできわどいし、やっぱり12分にしようかな。

時間があるかなあ・・・眉毛を描いて行きたいけど、どうしよう、乗り遅れたら嫌だから、早めに行って向こうで描こうかな・・・。
あー、でも、見られたら恥ずかしいから、やっぱり一応眉毛を描いとこう。」

大急ぎで、カメ子は眉毛を描きます。適当に。

ところがです。彼女が職場に着くとそんな日に限って病院が開く30分も前から、患者さんが待ち構えていました。

「あ、良かった!看護婦さん、お願いします、交通事故なんです!」

「え! 交通事故? わ! 血だらけですね、はい、どうぞ中へお入りください。」

カメ子はあわてて正面玄関を開け、事故のワンちゃんを抱えたままのムッシュN夫妻を招き入れました。

ちょうどそのところへ、院長も入ってきます。
さてその後は、暴れる犬を押さえながらも緊張の声が飛び交わし、鎮静剤をかけたり、手術が始まったりしたのです。

それから2時間ほどして、とりあえず大事にいたらずワンちゃんの容態は落ち着きました。
肘の太い血管から吹き出ていた出血も止まり、ワンちゃんは静かに寝ています。

「先生、私今朝ですね、眉毛を描かないで、こっちに来てから描こうかと迷ったんですけど、やっぱり描いてきて良かったです。
あの状態では、眉毛のないまま、仕事に突入でしたから。」

カメ子が笑いながら言う。

「そうか、君は眉毛を描かないと無いのか。大変だね。」

果たして上手に描いてきたのかどうか、私はこっそりカメ子の顔を見る。
まあ、たいした出来ではないが、不利な戦力で、けな気に戦う指揮官のように頑張って描いている。努力賞くらいはあげたいと思う。

それにしても、無い眉毛を描いて来て良いのなら、

「無い髪も描いたって良いじゃないか!」と言いたくなるのは、私のひがみかしら・・・?
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