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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

麻疹の記憶

「最近入れた子犬が、ここ数日どんどん食べなくなっているんです。皮膚もひどいし、一度診てください。」

ある日そんな電話がかかりました。

さっそく昼休みに往診に伺います。そこには広い敷地に木造の犬舎が作られ、犬が数頭飼われています。
そして真ん中の部屋にドーベルの子犬はいました。

私たちが行くと、元気なくのそりのそりと出てきたその子犬は、顔も足も皮膚がひどくただれていました。

「わあ、ひどいですねえ。この子はまだ幼いでしょ。きっとここはこの子犬には寒すぎるのかも知れませんよ。
いずれにしろ、病院に連れ帰って、検査をさせてください。」

そう言って子犬を預かり、病院に着くとすぐに隔離室に入れ、感染症を警戒しながら暖房を効かせて様子を見る。
皮膚の掻爬検査では、アカラスダニが見つかりました。全身ひどい皮膚炎の原因の一つのようです。

子犬は部屋に着いたらすぐにこんこんと眠り始めます。人がバタバタと出入りしても、全然起きない。とうとうその日の昼から鼾をかきはじめて次の日の朝までずっと眠り続ける。どうやらそうとう疲労困憊していた様子でした。

翌日から皮膚の治療を続けながら、体力回復にも努めました。

「皮膚のぶつぶつがひどいですね。私、自分が麻疹(はしか)にかかった時のことを思い出しました。」

4,5日たった頃猫娘が、診察台に上げた子犬を見ながら言いました。

「へえ、麻疹はこんなにぼこぼこになっちゃったの?」

「はい、もう、ゾンビみたいになったんです。私、鏡を見ながら、(この顔、治るんやろうか?)て、心配しました。

実は、最初は弟がかかったんです。熱が出て、その日は家族でドライブの日だったんです。きつそうだったんで、『あんた、どうする?行く?』って聞いたら、『一緒に行く』って言うので、連れて行ったんです。」

「えっ? 普通、熱があったらドライブとか行かないでしょ?」

「いえ、うちは希望性だったので、本人が希望すれば出かけられるんです。」

「えー、無茶苦茶だなあ・・・」

「それなのに車の中で弟がきつそうにしていたので、『あんた、しっかりし、そんなのは気持ちの問題やろ!』って、言ったんです。」

「・・・鬼のような家族だね。」

「ところがそれが麻疹だったみたいで、翌日に私も妹も熱が出て、ブツブツ顔に現われたんです。

もう、それがどんどんひどくなって、『本当にこれがきれいに治るんやろうか?』ってすごく心配でした。中学2年の頃・・・です。」

(ふーん、麻疹ってそんなにぶつぶつになるのか・・・
 
 おい、おい、子犬君、心配するな。君はもっときれいに治るからな・・・)
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