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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

生きるという事

獣医は沢山の飼い主さんと接する職業です。それで、飼い主さんとの話を通して、いろいろな意味で教えていただく事も多くあります。

以前もこんな事がありました。

可愛い老犬コロ(仮名)を世話されていたムッシュご夫妻がいました。
ところがある頃からコロちゃんの食欲が低下してきたのです。検査の結果、肝臓付近に何か出来ている事がわかりました。

相談の末お腹を切りましたが、開けて見ると癌と思われる大きな組織が予想以上に広がり、手が出せませんでした。
私は残念な報告を伝えたのですが、ムッシュは退院の時

「いいね、大丈夫ね、コロさあ、帰ろうね。」

と、明るく犬に呼びかけました。
ところでこのムッシュは口の悪い方で、私が研修会に行くと行って病院を閉める時は

「あっ、ほら、コロちゃん、また先生はどこかに遊びに行くってよ、研修って名目だけど、本当は遊びに行くんだよ、お土産頼みなさい。」

とか、あるいは点滴治療でコロちゃんが頑張ると。

「ほら、コロちゃん、何か美味しいもの、もらいなさい。先生から何か、あら、無いのかなあ?」

等と言って、スタッフ達を笑わせてくれました。
何しろ明るい方でした。ムッシュが来られるだけで、病院が明るく賑やかになるのです。

けれどある時、奥さんがこう言われました。

「うちの主人はいつもあんなにふざけた事ばかり言ってますけど、実は主人もお腹に癌があって、病院の先生から『あと余命は半年』と言われたんです。それからもう2年たつんですけど。今日もこれから主人の定期健診日なんです。」

と、教えてくださいました。

「えっ!・・・そうなのですか!」

私はびっくりしました。

(本当に人とは、見かけだけでは、その内側に何を秘めているのか、そして何と闘いながら生きているのか、あるいはどのような考えや努力をしながら生きているのか分からないものだなあ・・・)

と、あらためて考えさせられたのです。

人の内側は見抜けませんが、時々ちらりと触れた時、そんな人の深さや高さに、ハッとさせられるのです。
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