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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

一匹なら、もらおうか!?

「うー、寒いわねえ・・・」

雪がちらつきそうなある冬の夕暮れでした。
厚着をして、マダムはいつものようにパタパタと買い物に出かけます。

歩くと十数分でしょうか。肩を丸めて早足で向かいます。

着けばショッピングセンターの中は暖かく、ホッとして体中の緊張が解けます。

眩しいほどの蛍光灯ライトが注ぐ店内、必要なものを商品棚に探しては籠にいくつか入れ、ついでに予定ではないけどつい手が出てしまった余計な買い物も、ちょっとしてしました。

最後に行きつけの八百屋に寄り、おじさんのつまらない冗談を聞きながらジャガイモ一盛りと洗われて奇麗な朱色の人参、それからちょっと考えて小ぶりのミカンも一籠もらいました。

「さあ、急いで帰りましょ。」

と、思った時、小さな小学生が五人、横に並んで道に立っているのが目に入りました。

(あら、何してるのかしら?)

見ると真ん中の一人が、ダンボール箱を抱えています。みんな木枯らしに吹かれてほっぺたが真っ赤です。

「あんたたち、何してるの!? 何を持ってるの?」

マダムは興味を引かれて近づくと、男の子達に聞きました。

「子猫です。里親になってくれる人を捜しています。」
「お願いします、おばちゃん。」

五人の視線が、マダムに注がれます。

マダムは、ダンボールの中を覗きました。
目が開いて間もない子猫が、三匹震えています。

「お願いします。おばちゃん。」

口々にそう言う男の子達の顔を一人一人眺めながら、マダムはもう一度箱の中を覗きます。

マダムと一緒に、男の子達も箱の中の子猫を覗き込みます。

「・・・一匹なら、もらおうか!?」

そう言った時、マダムの顔はすごく優しくなりました。
自分でもそんなこと言うなんて、思ってもみなかったのですが、つい、そう答えてしまったのです。

「ありがとうございます。」
「ありがとう、おばちゃん!」

子供たちも目を輝かせて、鼻水の垂れそうな顔でマダムを囲みます。

・・・・・・・

「と、まあそういうわけで、昔、この猫を飼うようになったんだけどね、・・・もうこの子も何歳になったかしら、年をとったわね。」

診察の終わった後、マダムはそんなエピソードを教えてくださいました。

「寒い中、じっと立ってる子供達が、可哀想に思えてねえ・・・」

思い出し笑いをするように、マダムはそうも言われました。

人の心って、どの瞬間に動くのでしょうか?

心の機微というものを感じずにはおれない、素敵な話でした。
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