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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

バリカンの勤務時間

「やあ、こんにちわ!間に合いましたねえ。」

「はい、急いで駈け戻りました。」

土曜日の閉院間際の夕方でした。
マダムSが息をハアハア言わせながら、おいでになりました。額にキラリ汗が浮かんでいます。

マダムの御身内が亡くなられたとのことで、二日間ビーグルのトトちゃんをお預かりしていたのです。

「間に合って良かったですね。」

明日は日曜日で、お迎えのできない日になるので、私はそう言いました。

「ヘヘヘ、本当は私も二日間寝てないから、体がきつくて、月曜まで預かってもらおうかとも思わないでもなかったんですが・・・。」

「あら、それはお疲れですね。」

よほどきついのだろうと推察したが、それでも息を切らせてお迎えに来られた事を勘案すると、気持ちの深いところでは、迷わず今日連れて帰ることに決めておられたようです。

病身のトトちゃんを包むように抱いて、マダムは優しくバギーに移しました。

「では、お気をつけて・・・。」

春の傾きかけた夕陽が、帰路につくマダムとトトちゃんを照らします。

二人をお見送りして診察室に戻ると、コンセントにつながれた一台のバリカンが目に付きました。

「おや、こいつはまた、充電か?」

「はい、それは説明書によると、充電に8時間かかるそうです。満タン充電して、50分動くそうですよ。」

「8時間充電しても、たった50分しか働かないのか!うーん、それなら、人間の方が良く働いているよね。

6時間寝て、18時間は働いているんだものね。」

(それに、マダムは一昨日から48時間働いていたらしいしなあ)

充電中を示す赤いライトを点灯させてそこに横たわる冷たい銀色のバリカンを見つめながら、

なんだか私はそんなことを、考えたのでした。
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