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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

駐車場の白猫

「さあ、お散歩に行こうか!」

マダムOが2歳のダックスフントの男の子キウイちゃんに声をかけます。「待ってました!」というような顔をして、キウイは嬉しそうに尻尾を振り、跳ねるように先に玄関に行きます。

「待っててね、今用意するからね。」

マダムは散歩セットを持ち、わくわく顔のキウイを抱くと、エレベーターに乗りました。

「チン・・」

マンション前の広々した駐車場に出ると、あたりはそろそろ夕暮れでした。

「気持ちがいいねえ、ほら西の空があんなに燃えている。」

梅雨の合間に青空が広がった一日でした。夏至の頃の福岡は、日没が7時過ぎです。7時半までは明るくて、本も読めるくらいです。

「さあ、キウイ歩こうか。」

マダムがキウイちゃんを降ろして門の方へ向かった時でした。
まったく突然、そばの駐車場の車の下から一匹の白猫が躍り出ました。

「シャー!!」

「えっ?!・・」

マダムには一瞬何のことかわかりませんでした。けれどわからないまま、次の瞬間その白猫はキウイに襲いかかり、のしかかると背中に咬みつきます。

「キャンキャンキャンキャン・・・・」

びっくりして尻尾を巻いてマダムの後ろに逃げるキウイ、しかし猫はなおもキウイを威嚇します。

「フワーッ!!ウヤーオー!ウヤーー!」

「しっ、しっ、あっちへ行きなさい。駄目!」

マダムは仰天しながらも、この凶暴な白猫をなんとか撃退しようと、手を振り回します。

「シャーッ!」

白猫は今度は大声を上げて立ちふさがるマダムに目を転じ、耳を真後ろに倒すとカッと開いた瞳孔と火を噴きそうな鋭い牙を剥きました。

「何なの!この猫!」

突然の事態にすっかり動転しているマダムのその足に、白猫は容赦なく飛びかかってきました。

「キャー、だめッ!!」

「ガッ、ガッ!!」

凶暴な白猫は、マダムに体当たりだけ喰わせると、そのまま夕闇の駐車場に消えて行きました。

・・・・・・・・

「先生、そういうわけでキウイの背中に咬み跡があるんです。診て下さい。」

翌日、可哀想に意気消沈したキウイちゃんが、連れて来られました。

「マダム、その猫は様子は異常ではなかったですか?万一狂犬病だとマダムが危ないから、怪我があったら、病院に行かれてくださいね。それにしても、稀に見る凶暴な猫ですね。」

(ダックスフントもアナグマ狩りに使われるくらい強くて戦闘力のある犬なんだけどなあ。まさか、猫に襲われるとは思わなかったから、油断したんだよなあ。)

私はいつもおとなしいキウイちゃんに心の中で話しかけながら、化膿止めの注射をしたのです。
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