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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

エントランスの小スズメ

「先生、またスズメがきましたよ。」

スタッフが連絡してくる。

「今週は、二度目だなあ。」

診察室に、幼児連れのマダムが左手に籠を持って入って来られた。額にちょっぴり汗を浮かべ、朝の忙しい時間を工面して、幼い子の手を引きながらなんとか連れて来られたようです。

初めての動物病院を尋ねるのに、勇気もいっただろう。

「あの・・・、マンションのエントランスにスズメが落ちていたんです。」

そう言うと、マダムは籠を抱え上げた。プラスチックの小さな籠にボール紙で蓋をし、中を見ると入っているのはまだ小学生のような幼いスズメです。巣立ちをしたばかりででしょう。何を間違えたか玄関に迷い込んで出られなくなり、母鳥からはぐれたようです。

「近くに、他のスズメはいませんでしたか?」

「はあ、多分。・・・このままでは、カラスとか猫にやられそうだったから・・・。」

籠の中を覗くと、片足を伸ばして体は傾き、もう衰弱が進んでいるようです。

(これは、もう数時間しか持ちそうにないなあ・・・マダムには、どうしようもないだろうし・・・)

「じゃあ、お預かりしましょうね。ちょっともう難しいですけど、もし助かったら連絡しますから、迎えにきて、マンションの前でまた放してあげてくださいね。」

私たちはスズメを受け取ると、すぐ保育器に移した。

「すり餌をつくろうか、抗生物質を少し混ぜて。」

さし餌をしようとすると、ちっさな体で、しかしスズメは最後の抵抗に力を振り絞るように、私の指を突付いてくる。

「へえ、なかなか、気が強いね。しっかり食べなさい。」

無理にソノウへ流し込まれ、その後スズメはぐったりと寝てしまう。
保育器の中で、お母さんが迎えにきてくれる夢を見ているのだろうか。
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