海苔の佃煮
雨のしょぼつく午後でした。
検査室で私がパソコンに向かって作業をしていると、カメ子がやって来て何か洗い物を始めた。
流しに向かい、水道を流しながらキュルキュル洗っています。
「先生、このビン何だかわかります?」
カメ子がこちらを見ながらニヤリと笑って聞く。
「え? 何だって?」
「これですね、ヘヘヘ、先生が買ってくれた海苔のビンですよ。」
「海苔のビン?」
「ほら、みんなで柳川に遠足に行った時、先生がお土産にって、一つずつ買ってくれたじゃないですか!」
「ああ、・・・あの時ね・・・」
瞬間私の脳裏にひらめいたのは、柳川の松涛園近くの掘割沿いの店で、並べられていた佃煮を手に取った時の情景でした。
「うーん、これにしようかな、これちょうだい、4つ!」
(・・・しまった。あの時は節約して、小さな海苔の佃煮しか買わなかったんだ。もう少し良いものを買ってあげたら良かったなあ。
北原白秋の詩集とか、下げもん飾りとか・・・申し訳ないなあ・・・)
私は小さなビンを洗っているカメ子をチラと見ながら、無言で責められているような気がして密かにうろたえた。
しかし、今さら反省しても仕方ない。
第一、うちのスタッフ達のことだから、北原白秋の詩集より、佃煮のほうが良かったかもしれないじゃないか。
ただウナギならもっと良かっただけの話である。
私はジョークで切り抜ける事にした。
「そうか、海苔の佃煮か。ハハハ・・・、ところであれはどうした?ほら、真珠のネックレスも一緒に買っただろ?」
「ああ、あの真珠ね、あれは偽物でした。」
瞬時にカメ子に切り返されてしまい、私の笑い声も空しく止まる。
「・・・キュッ、キュッ・・・」
ビンを洗う音だけが、耳に刺さる午後・・・・。
(ところでカメ子がそれを洗っている理由は、病理検査のホルマリン検体を入れるのに適当なサイズのビンだからです。)
検査室で私がパソコンに向かって作業をしていると、カメ子がやって来て何か洗い物を始めた。
流しに向かい、水道を流しながらキュルキュル洗っています。
「先生、このビン何だかわかります?」
カメ子がこちらを見ながらニヤリと笑って聞く。
「え? 何だって?」
「これですね、ヘヘヘ、先生が買ってくれた海苔のビンですよ。」
「海苔のビン?」
「ほら、みんなで柳川に遠足に行った時、先生がお土産にって、一つずつ買ってくれたじゃないですか!」
「ああ、・・・あの時ね・・・」
瞬間私の脳裏にひらめいたのは、柳川の松涛園近くの掘割沿いの店で、並べられていた佃煮を手に取った時の情景でした。
「うーん、これにしようかな、これちょうだい、4つ!」
(・・・しまった。あの時は節約して、小さな海苔の佃煮しか買わなかったんだ。もう少し良いものを買ってあげたら良かったなあ。
北原白秋の詩集とか、下げもん飾りとか・・・申し訳ないなあ・・・)
私は小さなビンを洗っているカメ子をチラと見ながら、無言で責められているような気がして密かにうろたえた。
しかし、今さら反省しても仕方ない。
第一、うちのスタッフ達のことだから、北原白秋の詩集より、佃煮のほうが良かったかもしれないじゃないか。
ただウナギならもっと良かっただけの話である。
私はジョークで切り抜ける事にした。
「そうか、海苔の佃煮か。ハハハ・・・、ところであれはどうした?ほら、真珠のネックレスも一緒に買っただろ?」
「ああ、あの真珠ね、あれは偽物でした。」
瞬時にカメ子に切り返されてしまい、私の笑い声も空しく止まる。
「・・・キュッ、キュッ・・・」
ビンを洗う音だけが、耳に刺さる午後・・・・。
(ところでカメ子がそれを洗っている理由は、病理検査のホルマリン検体を入れるのに適当なサイズのビンだからです。)
2010-07-20 15:00
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