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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

外灯の交換

「先生、外灯がひとつ、消えてますよ!」

夕方、カメ子がそう言って来た。

「え? どこの外灯?」

「ほら・・・、そこの・・・、隅の・・・」

口をあふあふさせて何か喋ろうとしているが、具体的でないのでどこの事かちっともわからない。

「どこ?用水路のとこ?」

「はい、そうです。」

駐車場側の器具でないなら業者を呼ぶ必要はないので、いつか暇な時にということになった。

それから二日たち、カメ子が言う。

「先生、今から蛍光灯を換えます。」

「おっ、そうか、じゃあ手伝おう。」

寒い夕暮れに、一人で取替えは気の毒なので、付き合った。
やや背の高いカメ子が小さな脚立を持って歩くと、あのドラマ「庶務二の女」を演じた江角マキ子の場面を思い出したが、それは褒めすぎだろう。

そうすると、私は課長を演じた森本レオに近づけるか・・・。

さて、建物の角に設置された20ワットの小さな外灯を見上げながら、カメ子が言う。

「うーん、やっぱり高いですね、脚立に上がっても届きません、こっち側のブロックまで上がれば届くと思います。」

「いやいや、そんなとこまで君を上がらせるわけにはいかないから、やっぱり僕が上がるよ。」

「そうですか?」

こうして頼りない課長が上がることになった。足場が悪くて、脚立がカタカタ揺れる。それをカメ子が足で押さえる。私は脚立の最上段からブロックに片足を乗せて手を伸ばし、外灯を留めているネジをまわしてカバーをはずす。五十肩が痛い。

「イテテテ、肩が痛いなあ。」

「先生、大丈夫です、本当の五十肩なら痛くて仕事なんか出来ないと言いますから・・。」

カメ子の励ましに支えられ、もたもたしながらようやく古い蛍光灯をはずし防水ゴムを付け替えて、なんとか新しい蛍光灯を差し込んだ。

「さあ、点くはずです。」

なるほど、並んでいる他の二台はもう点灯しているので、これも点くはずだった。

「・・・・・・ 点かないね。」

「・・・・・・ 点かないですね。」

「・・・・・・ グローが悪いのかな?」

「・・・・・・ グローが悪いのでしょうかね。」

二人で未練がましく見上げていたが、やっぱり点かない。あたりは薄暗くなりかけている。晩秋の風が用水路を吹きぬける。

原因はわからないが、グローをはずしてみると真っ黒だったので、次回これを交換してみようということになった。

キティちゃんのママが電気店で働いておられるので、さっそくカメ子が電話して問い合わせていた。

「先生、在庫あるそうです。今度来る時に、寄ってもらって来ますね。」

「うん、頼むよ。」

さあ、次回グローランプを換えたら、果たして外灯は点いてくれるだろうか・・・?。
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男の子の思いに感じて

「先生、このまえですね、ちょっと嬉しい事があったんですよ。」

一日の仕事を終えて帰り支度をしていた時です。廊下でカメ子がそんなことを言います。

「へえ、嬉しい事が!?」

「はい、何があったと思いますか?」

(何が?・・・と言われてもねえ・・・カメ子のちょっと嬉しい事?・・・。いい男には巡り合いそうもないし・・・、はて、財布でも拾ったかな?)

「うーん、わからない。何?」

「実はですね、お昼休みの頃なんですけど、高校生くらいの男の子が一人で入って来たんですよ。そして、

『近所に足を怪我したみたいなパグ犬がウロウロしているのを見つけたので、助けてもらえませんか?』

と言うんです。私は、

『職場を抜け出すわけには行かないけど、もしあなたがここまで連れてこれるなら、出来る範囲で手当てしたり、飼主を捜す手助けをしたりできるかもしれませんよ、

でも、十分気をつけてね。抱き上げようとして咬まれたりすることが多いから、無理はしないで、もし出来ないならあきらめて。』

って、言ったんです。そしてダンボールの箱を渡したんですよ。そしたら、十五分くらいしてかなあ、その男の子が戻ってきたんです。そして、

『僕が犬を触っていたら、通りかかったおばさんが「あんた、その犬をどうかすると?その犬は昔から足を怪我しとるよ。近くの家の犬やから、大丈夫よ。」と、言われました。

それで、このダンボール返します。どうも、ありがとうございました。』

って、言うんです。私、なんとなく嬉しかったです。」

「そうか、高校生くらいの男の子が通りかかりにびっこをひいている犬を見かけて、助けようか、どうしようか、あれこれ考えて考えてくれたのか。病院まで相談に来て、一人ででも、何かしてあげようと思ったんだね。」

わたしもその話を聞いて、カメ子と同じようになんとなく嬉しくなりました。
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母娘二代で

先生、ワクチンの患者さんです。」

秋も深まり行く、11月も下旬のある日の午後でした。
カメ子に呼ばれて診察室に行くと、美しいマダムと中学生くらいのお嬢さんが、白いトイプードルを連れて入って来られました。

(ん? 見たことある女の子??)

と、内心思いつつ、まずワクチンの問診をしようとした時でした。マダムの方からこう言われました。

「先生、その節は子供がお世話になりました。」

「・・・?あ、そうだ! 職場体験ですね! この前来てくれたんだ!」

そうそう、中学生の職場体験ということで、当院に二日間、通ってくれた二年生の女の子二人のうちの一人でした。

「はい、ありがとうございました。子供も喜んでいました。

 先生、でも実は私も、まだ結婚する前のことですが、ヨークシャーテリアを連れてきて、ここで先生に診てもらったことがあるんですよ。

あの時は、癌が出来ていると言われて、子宮をとって、皮膚も(乳腺?)だいぶ切って・・・手術をしてもらいました。

でもその犬、あれから随分長生きしたんですよ。フフフ・・」

「へえ・・、そういうことがありましたですかね?」

「はい、だからまた娘がこちらで職場体験をさせてもらうと聞いた時、まあ!こちらの病院には縁があるのかしら・・・と思いました。」

マダムがニコニコと懐かしそうに話してくださる。

(うーん、昔、そんな手術をしたヨークシャーは???)

大急ぎで頭の中の想い出のアルバムをめくるが、あちこちページが糊で張り付いているのか、すでに記憶が脱落したのか、出て来ない。

こんな時はかっこよく、
『はいはい、覚えてますよ!そうでしたよねえ!あの時の、そうか、ヨーキーのお嬢さんでしたか!』
・・・と、答えられたらいいのだが、残念ながら思いだせなかった。

いや、多分、カルテさえあれば、記憶の糸はたぐれるかもしれないが・・・。

「それにしても、マダム、マダムがまだご結婚前にヨーキーを連れてここにお出でになり、その後結婚されて、こんなに大きな娘さんがいるわけだから、
つまり、私も年をとったということですねえ・・。」

私はしみじみと、そう思った。いえ、本当に。

と、マダムはすかさず

「いえいえ、先生はあの頃とちっとも変わりませんわ!」

笑いながらそうフォローしてくれたのでした。
その笑顔は、私には案外うれしいものでした。

人医では、子供が大きくなった時、わが子を自分のかかった小児科に連れて行くというケースがあるようです。

いえ、親犬のその子犬や孫犬をまた同じ獣医が診るのは、それはあたりまえですが、・・・だって犬は二歳で子供を産みますからね、

でも、人生に最も大きな意味をなすのは、やっぱり人と人との係わり合いです。

人との係わり合いを抜きにしては、意味のある仕事など、この世に存在しないとも言えるでしょう。

ですから、同じ動物病院にかかっていただけるということ、十数年して親娘で来てくださるというのは、獣医としても嬉しい事でした。感謝なことでした。
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二十五年の間

先日私にエアメールが届きました。

(誰だろう? 海外に手紙をくれるような知り合いはいないけど・・・)

そう思いながら封筒の片隅の名前を見ると、訪問のたびに何度も見学でお世話になったホノルルの獣医、ドクターKからでした。

急いで開くと一枚の便箋に平仮名でこう書かれていました。

「ふちがみさん、いかがですか。ぼくはKです。
 ことしの一月にびょういんをうりました。僕の体が、ようんじゅうねんのあいだにえらくなってきました。

 二十五ねんのあいだ、いっかいでもやすみとらなかったからもっとえらくなりました。
 ・・・・」

ドクターは郊外の住宅地で動物病院を開業し40年間働いたそうです。結婚をせず、特に後半の25年間は信じられないことですが、一度も休みをとらなかったそうですから、畏れ入ります。

地下一階地上二階建ての100坪はありそうな広い院内には、いつも動物が溢れていました。
置き去りにされた動物達も、翼が折れて飛べなくなった鳩も、飼われていました。
日曜日も世話が大変だろうというのは容易に想像がつきました。

もう60代の半ばとなり、そろそろ病院を売ってリタイヤしたいと思うのは当然でしょう。

最高の技術を有して、獣医学の先端を切り開いてくださる先生方には勿論、賞賛の言葉を惜しみませんが、

このように働き抜いた先生にも、人として尊敬を抱かずにはおれません。
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We Love You So Much

「先生、実はお話しがあるのですが。」

ある日の夕方でした。猫娘が院長室に来ると真面目な顔をしてそう言う。院長室と言っても、消耗品置き場の片隅に机があるだけです。

「うん? 何だろう?」

「あの・・・、実は、退職させてもらおうかと思います。」

むむ、やはりそうか。そもそも猫娘が神妙な顔をしている事自体が、おかしい。
就職以来、彼女が真面目な顔を見せる時は決っている。お昼の出前を何にするか?と考えて、メニュー表を睨んでいる時だけだった。

「お、やめるのか。そうか・・・、やめてどうする?」

「はい、だいぶ迷って考えたのですが、料理関係の勉強をしようかと思います。するのなら、いましかないと思うので。」

(やっぱり食べ物か・・。それなら、考えられるな。)

「そうか、前からスィーツのこと言ってたからね。」

「いえ、お菓子だけじゃなく、料理全般ですけど。」

「そうか・・・」

彼女はよくお菓子やパンを作ってきては、私たちにご馳走してくれた。見栄えも味もなかなかのものでした。
しかし、その道に進むとなると、厳しさは全く別物だろう。

いずれにしろ、病院は寂しくなる。
四年前「猫の手」と思って、来てもらったが、どうしてどうして最近は随分仕事を覚え、先輩たちにも引けをとらなくなった。
いや、どうかしたら、他の者が手間取っている事柄を、一番手際よく処理できる様子を目の当たりにすることもあった。性格は多少悪いかもしれないが、惜しい人材です。

きっと他のスタッフも残念がるだろう。しかし、まだ若いし、一生動物病院にしがみついている必要もないだろうから、一区切りかもしれない。

「わかったよ、ところで具体的には、これからどういう風にするか、方向も決めているか? ・・・そうか、じゃあ、うまくいくといいね。」

というわけで、皆様にも絶大なる支援していただいた猫娘でしたが、残暑厳しい頃、退職が決ったのでした。

とは言え、急に止められても困るので、お願いしてそれから二か月ほど勤務は続けてもらいましたが、あっと言う間にその二か月もたってしまいました。
十月の末でした。

かくして、猫娘が辞めて半月が経過します。
また、そろそろ猫の手が欲しくなったこの頃です。

・・・・・

 「猫娘の行く手に、神様の祝福がありますように!!」
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ワクワク日曜日

「先生、この前の日曜日、私がどこに行ったと思いますか?」

午前中、手術室の器具の滅菌などをしながらカメ子が言う。

「え? どこに行ったかって? ふん、君のことだから、そうだなあ、どこかの美術館か、そうでなきゃ、天神だろ?」

「へへへ・・・、実は福岡市動物園で飼育体験教室に行ってきたんですよ!」

嬉しそうにカメ子が笑う。

「へえ、そりゃ、すごいねえ。どうだった?」

「はい、たくさん参加者があって、私はキリンとサイとサル山の担当グループに入りました。
サイの背中をブラシで擦らせてくれたんですよ。そしたら白いホコリがもうもうと上がって、頭まで白く被りました。
でもサイは、すごくおとなしかったですよ。」

「あそこにいるのは白サイだったよね、そうか、良かったね。サイは可愛いね。僕も大好きだよ。野生動物の中で、一番カッコいいね。」

私も昔、学生実習でサファリパークに行き、夕方になって棒でサイのお尻をこつこつ突付きながら、群れをサイ舎に連れ帰った時の事を思い出した。

無骨なスタイルに、角だけ突き出して、そして草食獣で、恐れ知らず。サイは野生動物の傑作デザインの一つだと思う。

そして彼らは怒らせたりしなければ、大変おとなしい動物だそうです。

「サイの角は何で出来ているか知ってますか?あれは牛の角と種類が違うんですよ。中には骨が通ってないんです。」

「ふーん、そうだったかな?皮膚の一部が変化した組織だったっけ?牛の角は切ると出血するもんね。」

「はい、それと、キリンと角はわかりますか?」

カメ子は、動物園からもらってきた動物クイズの問題用紙を開いて、私に回答を迫る。
全部で10問。
これが案外、むずかしい。キリンの角は何に使われるか?と、問題がある。

「えー、これはねえ・・・うーん、いやケンカには使わないだろ?首を叩きつけ合うのを見た事があるけど、角でぶつかってなかったぞ。」

「いいえ、ケンカで使うそうですよ!

じゃあですね、ツシマヤマネコの耳の裏には白い斑点があります。同じような斑点を持つ動物は、以下のどれですか?」

「えーと、タヌキじゃないぞ。アライグマは載ってないし、どれだろ?」

「へへ・・、トラと野生の猫類です。これは共通の特徴らしいですよ。」

カメ子は得意そうに話す。次から次に質問しては、自分の優位をひけらかす。
(ちきしょう、君は昨日、聞いてきたばかりだから知ってるだけだろうが。)

私は少し悔しさを感じながらも、それを表情に出さずに彼女の話に耳を傾ける。

「それからですね、サル山も入りましたよ。」

「え? サル山に?危なくないの?襲われなかった?」

「はい、案外おとなしかったですよ。」

(カメ子は飼育員がいるから襲われなかったことに気づいていないようだ。きっと、一人でサル山に行けば、襲われるに決っているんだ。)

やはり学生時代実習先で、10kg程度の小さなテナガザルに襲われて、引き倒され、4針縫う怪我をしたところで、レインジャーに助けてもらった経験のある私は、ぶつぶつ胸のうちでつぶやきながらも、やはり黙ってカメ子のわくわく体験を聞いていた。

「中学生と高校生も来ていて、彼らはサル山のてっぺんまで上がって写真撮影をしてもらってましたが、わたしはそこまでは遠慮しましたよ。

でも、高圧ホースがあって、それで水圧で掃除が出来るんですが、力が強かったです。

それで車を洗ったりしようものなら、ワイパーが壊れるくらいの水圧があるそうです。

『お客さんに水がかからないようにしろよ!』って言われました。」

次から次に、楽しそうに報告をしてくれる。

「それでですね、餌の準備室に行ったら、サルのペレットフードがあって、『これは人も食べれるんだよ、食べて見るかい?』って、聞かれたんです。

他の人は尻込みしたんですが、私は食べて見たんです。ビスケットみたいな感じかな?

そしたら飼育員から、『食べて見る?って聞いて、本当に食べたのは今までであなたが初めてですよ!』って、言われちゃいました。へへへ・・・」

カメ子の話はまだまだたくさんあったが、ここに紹介し切れません。

興味のある方がおられましたら、カメ子が忘れないうちに、聞いてあげてください。

すごく楽しそうに話してくれますよ。
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置き去りされたけど

ある夜のこと、ダンボールに猫を入れて、マダムとご家族がおいでになった。

「初めての猫です。先月から世話をしているんですが、実は近所で飼われていた猫なんです。もう・・13歳ぐらいになると思います。

その家のおばあちゃんが飼っていたんですが、亡くなられて・・・、それでお子さん達が家を処分して引っ越していかれたんです。

その時、この猫を置いて行かれて・・・。

それでうちで餌をやって少しづつ慣らせて、家に置いているんです。猫は外に出たがるんですが、このまま放せばすぐ、猫は元の家に帰ろうとするんです。でもそこはもう別の新しい家族が入居されてて、戻るわけには行かないんです。

戻っても、生活できないですよねえ?

だから、うちに置いて、しばらく世話をしてこのまま飼ってあげようかと相談したんですが、くしゃみと鼻水が多いのが気になって・・・。」

そういう相談の内容でした。

それにしても、感心しました。

優しいご家族です。
亡くなったおばあちゃんと、常々親しかったのかどうかは聞きませんでしたが、こんなふうに置き去りにされた猫の面倒を見てあげようと思う方が、やはり居られるんですね。

ところがこの猫の、怒りんぼうで、気の荒いこと。

「少しづつ、やっと慣れてきたのに病院に連れてきて、また当分怒るだろうね!フフフ・・・」

ご家族はそう言って、笑っておられました。

麻酔をかけて、時間が長くなりましたがなるべく丁寧に検査もしました。老猫の境遇を思ったとき、私たちにも嬉しい診察でした。
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おかしいと思ったんです

最近歳のせいか、人の会話が聞き取りにくくなってきた。

ある日、手術室に私がいた時のことです。

向こうの方で自動ドアが開く音がして、待合室にどなたかが入って来られました。カメ子がすぐ受付に立ちます。

手術室にいた私は、聞くともなく聞いていたのですが、優しそうな、女性の玉をころがすような奇麗な声が耳に入りました。

「あの、ちょっとお尋ねしたいのですが・・・」

「はい、どうなさいましたか?」と、カメ子。

「実は、うちの猫が、屁をこいてすぐ出て行くんですが・・」

「猫が屁をこいて、出て行くんですか?」

「はい、どうしたらいいかと思って・・・」



(・・・・変な相談だなあ?)

と思って私は聞いていた。

そして、後でカメ子に尋ねた。

「ねえ、さっきの方は、何の相談?」

「ああ、さっきのですか。あの方は、若い猫を飼っているのですが、塀を越えて出て行くと言われたので、去勢手術のことを・・・。」

「あぁ・・そうなの・・。」

(・・・やっぱりな、・・そんな相談するはずないと思ったんだよな・・)
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バッタのためだから

「先生、この前ですね、私があるビルから出ようとしたら、そこにバッタが一匹いるのを見つけたんです。」

お茶の時間に、カメ子が話し始めた。

「うん、うん」

「それでですね、私(何でこんな所にバッタがおるんやろう?)って思いながら、バッタをビルの外に出してやろうと思って

バッタの目の前で私の左右の足を八の字に揃えて、『おらっ! おらっ!』って跳びながら、バッタをじりじり自動ドアの方に追い立てていったんです。

「ふーん」

「そして、もう少しで外に追い出せるという所まで来て自動ドアが開いたら、そしたらバッタが急に私の足に飛びついてきたんです。

私びっくりして、『ギャアッ!』って叫んで、バッタを振り払おうとして蹴るまねをしたら、靴が脱げてポーンと向こうの歩道まで跳んで行ったんです。

(しまった!)
と思ってあわててケンケンしながらドアを出たら、その玄関のすぐ横でタバコを吸っている人がいたんです。その人、ぽかんとして、怪しいものを見たような目つきで片足立ちの私を見るんです。

私あわてて、手を振って『違う違うサイン』をしながら、『バッタを追い出していただけなんです。バッタです。』

って、言い訳したんですが、その人怪訝な顔をしたままで、(とりあえず女だし、危害を加えそうにないからまあいいか・・・)
って態度で、そのままタバコを吸ってました。

ヘヘヘ・・・私、自分の靴を拾って、そのまま立ち去りましたけど、あの人私が何て言ったのか、きっと意味がわからなかっただろうなあ・・」

カメ子はさも口惜しそうにそう言うのでした。
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