SSブログ

聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

橋の上で

それは十二月に入り間もない頃でした。冷たい風が室見川を吹き抜けています。
室見川は早良区と西区を境し川幅は70mほど、春には白魚がちょっとだけとれることで知られています。

その日、マダムBは「軽いランチでも行きましょうか!」と、友達とおしゃべりしながら堤防沿いを歩いていました。

「あれ・・・、ねえあれ見て! ほら、橋の上!」

突然友人が橋の上を指差しながらそう言いました。

「え? 何? どうしたの?・・・」

「ほら、あれよ!」

「・・・あら、カラスね。」

「ええ、そうだけど、あのカラスなんだか様子が変よ。」

向こうの室見橋のほうで、二羽のカラスがたむろしていました。

黒い大きな翼を広げて欄干にひょいと飛び乗ったり、そしてふわりと浮かんではストンとおりたり、動きが妙です。

「何してるんでしょう?」

「何してるのかしらね?」

「あれ・・・、何か狙ってるのよ! ほら、あそこに小さいの、何かいるよ。」

マダムは早足で室見橋の方へ行きました。なるほど、確かに何かがしゃがんでいるようです。身を低くして抵抗していますが、二羽のカラスが入れ替わり立ち代わり攻撃しているのでした。

「あなた、子猫よ、子猫が襲われてるみたい。」

膝が悪くてあまり歩けないマダムの足が、しかしその時はできるだけ速くなりました。

カラスは空からふわりと舞い降りると、子猫の背中を狙って爪を立て、持ち上げようとします。身構える子猫も必死で抵抗しています。さらわれたらおしまいです。カラスは高い所まで持ち上げて落とし、致命傷を与えてからいただこうとしているのです。

子猫が右を向いて応戦したら、左の空から、左に応戦したら後ろからと、空軍の波状攻撃で、子猫は危うしです。

ミャー、ミャーと助けを呼び求めますが、母猫の姿などどこにも見えません。

マダムは敢然とその場に割り込み、気味の悪いカラスに立ち向かいます。

「こら、カラス、あっちへ行きなさい。シッ、だめ、こら!だめよ!」

「ガアー、ガアー!!」

カラスたちはとんだ邪魔が入ったという顔で、いかにも不満そうに離れると、近くの電柱に留まってまだ様子を窺っています。

「ねえ、大丈夫?子猫でしょ?」

「うん、どうだろう、あちこち怪我しているみたい、わっ、前足から血が出てるわ。病院に連れて行って診せないと・・・。」

それは白と黒のブチ猫でした。幼くはないのですが、まだ体重は1kgとちょっとぐらいです。

「車道に逃げなくて良かったわね。もしあっちに行ったら轢かれてるもんね。」

「痛いの? これ、心配しなくていいのよ、暴れないで、大丈夫だから・・・」

こうしてマダムは傷ついた子猫を抱きかかえると、病院まで連れて来たのでした。

「まあ、わたしもびっくりしたわ、でもねその時一緒だった友達がね、『きっと神様が、猫好きのあなたが橋を通りかかるようにされたのよ』って、言うのよ、オホホホ・・・」

レントゲンを撮りましたが、幸い骨折はみられませんでした。
その子猫は四日ほど入院して、元気になってマダムの家に引き取られました。

「可愛い顔してるでしょ、ほら、何て可愛い顔してるのかしら!」

マダムは見送る私たちにそう言いながら、いかにも嬉しそうに子猫を連れて帰られました。
トップへ戻る
nice!(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。