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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

ホノルル動物園にて(2)

ゲートを入り、バンヤンの巨木が生い茂る動物園の敷地の一番奥に、付属診療所があります。
検査診察棟の隣に開放型の入院棟があり、その一室に黄色い被毛に黒い斑点のある中型の動物が横たわっていました。最初ハイエナかな?と思いましたが、よく見るとチーターでした。コンクリートの床に毛布が敷かれ、向こうを向いて寝ています。

入院室の屋根は一部がコンクリート、一部が金網で、そこからは青空が見え陽の光も射し込んでいます。
春のような気持ちの良い風も吹きぬけて、快適な入院室です。広さは十坪ほどでしょうか。

しかしよく観察すると、チーターはお腹を膨らませながらやや苦しそうな呼吸でした。

「彼女ハ二十歳近クテ、チータートシテハ世界の動物園の長寿記録ノトップニナルデショウ。腎臓ヲ悪クシテイマス。」

日本の飼い猫の平均寿命は13、4歳でしょうか。特別長生きでは20歳くらいになります。大きなチーターも小さなネコも、どうやら寿命は同じくらいのようです。

「ネコは高齢になるとよく腎不全になりますが、チーターやライオンなどのネコ科動物もやはり腎不全になるのですか?」

「エエ、ヤハリ腎臓ヲ悪クスルコトガトテモ多イデスネ。」

さて、食事の時間になりました。隣室に新鮮な生肉が置かれ、二室を隔てた鉄扉が開けられます。カチャカチャという音ですぐに気がついたチーターはヨタヨタと起き上がり、いかにもきつそうにゆっくりと歩いて隣室へ向かいます。

ちょいと頭を下げて壁をくぐり、キョロキョロとしながら臭いを嗅ぎ回って、肉を探します。

「視力ハホトンド無クテ、嗅覚デ見ツケマス。」

なるほど、両目は白く濁っています。野生の本能でしょうか。入院室にいても彼女は警戒しながらゆっくり生肉に近づき、安全を確かめて口をつけます。
行動の一つ一つが、いかにも高齢であることを感じさせる所作です。

(本当に年をとっているんだなあ)

腎不全のネコならすぐに点滴してあげる所ですが、チーターではそれも無理でした。
きっと彼女はここで平穏な日々を、寿命を全うするまで過すのでしょう。

さて入院棟の反対側の奥には、ハワイアンオウル(フクロウ)がいました。
これは野生の個体が外傷で保護されたもので薄茶色、カラスより少し小さな体です。

一日につき一匹のマウスをフードとして食し、リハビリを続けてきたそうです。

「もう大丈夫だろう」といことで先日一度林に連れて行って放鳥したそうです。ところが翌日念のため見に行くと、まる一日たっても同じ所にじっとして動かなかったという事で、再び捕まえられ、リハビリ再開とのことでした。

スタッフが食事の時間になり死んだマウスを短い草の生えた地面に置くと、木の上から真ん丸い目でじっと見ていたフクロウ君は、すぐにひらりと滑空しながら飛んできて鋭い鍵爪をたててマウスを押さえ込みます。

そしてキョトンとした目でこちらを見ていましたが、やがてマウスを掴んで羽ばたき、お気に入りの枝に戻ってしまいました。

体に悪い所はなさそうなのですが、自然への復帰にどこがうまくいかないのか、野生動物の扱いは不可解です。
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ホノルル動物園にて(1)

病院猫の畏咲(いさく)から報告があったようですが、先週は研修のため診療をお休みさせていただき、当院へお出でいただいた方にはご不便をおかけしました。

例年ホノルル動物園で、押しかけ研修をさせていただき、もう11回目くらいになります。いつも寛容なスタッフたちが、私のような怪しい日本人を受け入れてくださり感謝です。

「オー、エイチロー、イラッシャイ!」

「やあどうも、久し振りです。」

「ゲンキデシタカ?デハ、サッソクダケド、イマカラ、ゾウガメノ目ヲ診ニ行キマショウ。」

私たちは園内用の小さなジープに乗り込んで移動します。

2月のホノルルは初めてでしたが、昼近くになると気持ちの良い程度の夏の暑さです。明るい太陽が、バンヤンの巨木がいたるところに繁る広い園内を照らしています。
しかし低い石垣で囲まれたゾウガメのゾーンは、踏みつけられるからでしょう、草は枯れ、乾いた土で覆われています。

ホノルル動物園にはアルダブラゾウガメと、ガラパゴスゾウガメの両方がいますが、目を悪くしていたのはアルダブラゾウガメのほうでした。

ゾーンの中央付近で二頭の成体が甲羅を押し合うようにして撒かれた野菜を食べています。そのうちの一頭の左目が病んでいます。角膜中央付近がやや盛り上がり、中心が出血を示す赤色で、周辺はやや炎症の白濁になっています。

角膜潰瘍を起こす一歩手前の様子です。

ザクリ、ザクリと、ゾウガメは野菜を咥えては噛み千切って飲み込みます。体重は250kgほどだとか。首の長さは40cmほどはあるでしょうか?

このゾウガメにしてやれることは、タイミングを見ていくつかの点眼薬を頭頂部から垂らしてやることのようです。顔を上に向けることも、横に向けることもとても出来そうにありません。

「よし、よし」

声をかけながらぺたぺたと彼の首を撫でる私を不審な人物と感じたのでしょう、ズリズリと私を追いかけるように移動してきて、しきりにズボンの臭いを嗅ごうとします。

(おや、ゾウガメは、個人を特定する能力があるんだ)

そう感じました。
ウミガメと一緒で口ばしの力が強いので、うっかり咬まれたら指を食いちぎられるかもしれませんから気をつけねばなりません。

「足ヲ踏マレタラ、アブナイデスヨ!」

あの重量で足を踏まれたら動けなくなりそうです。そのまま倒されたら確かに危険です。

角膜炎の原因は不明でしたが、三日後には少し改善していました。
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ドラ吉の思い出

病院猫の畏咲です。
今週は院長がホノルル動物園研修の為不在、診療部門はお休みにさせていただきました。
知らずに病院に来られた方々にはご迷惑をおかけしました。

普段たいして役にたたない院長ですが、動物病院としてはさすがに居ないと困る事があるようです。

居ないよりは居た方がいい、院長です。

そうそう、こんなこともありました。院長の身内のところの猫のドラ吉が、随分弱っていたのですよ。
ドラ吉はお人よしで愛想のいい奴でしたが、一年前にオシッコが詰まり、にっちもさっちもいかなくなりました。

「苦しい・・・、苦しい・・・」

あの時は点滴しながら三日間注射器でオシッコを抜いて、何度も尿道開通処置を試みましたがすでに癒着していたのでしょう、オシッコは二度と出てきません。

「オシッコがしたい・・・。」

ドラ吉の我慢も限界です。

こうなると後は尿道の途中に皮膚と直通する穴を開けてやるか、そうでなければ膀胱と皮膚が直通する穴を開けてやる必要があります。

「どうしようか?」

だけど問題があるんです。
どちらの手術も、細菌が入り易かったり、開口する排尿部が癒合閉鎖し易かったりで、大変だと聞いています。

そうそう、おいらもしょっちゅうオシッコのトラブルが出やすく、院長から食事制限を命じられていますがね。
なに、ちょっと位なら、美味しいもの食べたって平気ですよ。

ケージの端からちょいと差し入れしてくれるものがあったら、夢中でかぶりついていますよ。

だけど、なんだねえ、
うるさい院長がいつも口をはさむんだ。今日もさっそくこう言ってた。

「おい、畏咲、食べ物に、気をつけろ。健康をそこなうぞ。

 教会で聞いた話だが、ある調査によると、心臓のバイパス手術を受けるくらい健康を損ねた人たちも、その90%は食生活を変えないそうだぞ。医者から『このままでは、あなた死にますよ』と言われても、それでもどうしても変らないんだそうだ。

どうしてなんだろうねえ・・・。」と。

いやまったく、おいらも返す言葉がない。
やっぱり、好きなもんは好きなんだよな。止められないよな。

人も動物もどうやったら、生まれ変われるのかねえ。

話は戻るけど、だけどドラ吉は気の毒だったね。あいつは立派だった。食事を制限して、その上人口尿道チューブを入れて、それから一年間ずっと元気にしてたけど、

この冬の寒さがこたえたのかねえ、先月から急に容態が悪くなって、段々細くなって、
おいらを置いて、先に逝っちゃったなあ・・・

院長も研修から帰ってきてそれを聞いて、がっくりしてましたよ。

それじゃあ皆さん、皆さんも冬の寒さに気をつけてね。
もうすぐ春ですからね。
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ばっさり

二月にしては珍しく暖かくなったある日の昼下がり、飼主のJ兄弟に連れられて、猫のリンちゃん(仮名)が一年ごとのワクチンに来ました。

「元気ですか?」

「はい、特に異常はないと思います。」

茶色と白の被毛は毛艶も良く、賢そうな澄んだ目でキョロキョロ診察室を見回しています。

「体重は5.1kgかな、ちょっと増えましたが、健康そうですね。ではワクチンを注射しましょう。」

体温測定と聴診もすませ、問題なしと判断してキャリーバッグのドアを開けると、リンちゃんは「やれやれ、これで帰れるぞ!」とばかりにそそくさとカゴの中にもぐりこみました。

「おだいじにどうぞ・・・」

さて検査室に戻って椅子に座りしばらくしてからのこと、ふっと疑問が湧き、そばでモップかけをしているカメ子に聞きました。

「ねえ、Jさんの所、猫はニ匹だったっけ?なんだかこの前ワクチンしたような気がしてさ・・・。あれからまだ一年たってないような気がするんだけど。」

「はい、二匹います。この前は別の子を連れて来られました。でも先生、先生は一年前も同じことを私に質問をしましたよ。」

カメ子はピタッとモップの手を止めると、私のほうを向いてそう言い放ちます。

「え? そうだっけ、一年前も同じことを僕は聞いたの? 君はそれを覚えているわけ?・・・」

「はい、そうです。」

モップを忙しそうに動かしながら、なんだか冷たいカメ子の声である。
私は、もごもごと口を動かすが、言葉は出ない。

「・・・でも先生、2年間同じことを聞いたということは、先生の時間の感性が衰えてないということにもなりますから、それはそれでいいんじゃないですか?」

カメ子はそう言いながら、さっさと隣の部屋へ移って行った。

これが武士の立ち合いなら、私は正面から切られ、すれ違ったところをもう一度背中から切られた気分である。

無念!
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それぞれの現場

全国各地で、鳥インフルエンザが続発して止みません。

私は野生動物のある学会に名前だけ所属させてもらっていますが、今、盛んに情報が交換されているのは鳥インフルエンザ関係と、そして先月末の1月30日に金沢港沖で起きた原油流出事故があります。

8708トンの貨物船が防波堤に乗り上げ座礁、昨日の段階で金沢の海岸線69kmにわたって油が漂着しているそうです。

毎日状況報告が入り、「応援できる方はお願いします」と呼びかけもあります。

吹雪く冬の海で、油の回収作業をしてくれている方々がおり、また汚染された一羽、一羽の海鳥を保護し、洗浄するために走っている方々の情報がメールで入るたびに、彼の地の様子を思い浮かべます。

鳥インフルエンザの方は、毎日何十万羽の単位で殺処分されるニワトリのことが家畜衛生上でも経済問題でも非常に大きい為に連日報道されていますが、しかし原油流出はあまり知られないままになりそうです。

ある獣医は十万羽のニワトリを殺処分する為に今日も白い防護衣に包まって黙々と働き、ある獣医は一羽の海鳥を救うために防寒コートの襟を立てて海岸線を歩き続けている。

メールを読みながら、そんな同業獣医達を思いました。
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古い付き合い

「あれ、この犬なら私、知っていますよ!」

トリミングにやって来た黒い柔らかな毛をした犬のマリアちゃん(仮名)を見た時、実習生のタマ子がそう言った。

「え? なんで知ってるの?」

カメ子が聞く。

「だってこの犬、うちの近くの犬だと思います。私が中学生の頃から、見たことありますから。」

「へえ、そうなの。この子はね、十年位前かなあ、この病院で保護された子犬よ。里親さんが見つかって、もらわれて行ったんだけど、可愛がってくださって、時々カットに来てるのよ。」

「ふーん、そうだったんですか。昔ですね、この子、よく脱走して出てきて、うちの犬のフードを食べてましたよ、フフフ・・・。」

タマ子は嬉しそうに笑う。

それにしても、子供の頃の話ですが、近所の犬をよく覚えているのは、さすがに動物看護士です。

交番のお巡りさんは、担当地域の住人のことをよく勉強していると聞きますが、タマ子は動物が好きだからこそ、中学生の頃から近所の犬の動向や、顔つきをよく観察していたのかも知れません。

すれ違う犬や塀に登った猫なんかに、

「おい、今日はどこに行くんだ?」とか、

「おお、久し振りだな。心配したぞ!」とか、

話しかけられるようになったら、将来は動物関係に進んだ方がいいかもしれませんね。

猫嫌いの人には、何年見てても近所のノラ猫の特徴や見分けはつかないかもしれませんが、猫好きの人ならきっと名前までつけているでしょうしね。
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